2013年06月

[連載小説]戦う法務課長 第9話「企業買収編③ 交渉の帰結」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

記 憶   秋津製作所は、平剛三の父親とその友人が共同経営で始めた会社である。地方の町工場だったが、父親の代に開発された特許をもとに、希少価値のある自動車部品を提供する会社として、業界で注目されてきた。平が事業を引き継いで5年目、納入先の倒産で売掛金回収が困難になり、その際、部材仕入で取引のあった三島工商に金融支援を要請し、辛くも危機を乗り越えたことがあった。そのときに営業部員の隣に座っていた、目が充血した冴えない風体の法務担当課長の男が、今も妙に平の記憶に残っている。 法務や審査の人...

[連載小説]戦う法務課長 第8話「企業買収編② 再会」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

準 備    午前7時。まだ、誰も来ていないようだ。乾は、自分のデスクの上のパソコンのスイッチを入れた。起動音がはっきりと聞こえる。  「やあ、早いね」後ろから声をかけられた。隼である。どうやら、また会社に泊まりこんだらしい。  「10時からBIT社との最初のミーティングですが、何か準備をしておく必要がありますか?」  乾は、先週、株式会社三島工商に中途採用され、隼のいる法務課へ配属された。そして配属初日に、英国の機械部品メーカー、BIT社と共同で山梨県の秋津製作所に出資をするプロジェ...

[連載小説]戦う法務課長 第7話「企業買収編① 乾美和登場」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

バツイチ、乾美和登場    「おはようございます。今日からお世話になる乾美和です。」  隼は、昨晩から検討している契約書から顔をあげ、時計をみた。まだ、午前7時45分。  ロシアとの売買契約書の詰めが迫っており、現地にいる営業課長から今朝の10時迄にコメントがほしいと言われた。もっとも、その依頼がきたのは、隼が大学の同期会に遅れて出席し、1次会がお開きになる寸前。おかげで、校歌斉唱という不愉快な「恒例行事」を免れ、夜中に会社に戻り、そのまま夜を明かしたのである。  「ああ、隼です。部長...

[連載小説]戦う法務課長 第6話「契約交渉④」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

泰然自若    「先生。あの政府からきた女性が弁護士だってなぜわかったんです?」  「なにね。今、サポートしてもらっているモスクワの弁護士と大学で同級だったらしい。彼によれば、欧米の大手法律事務所からパートナーの誘いがくるほど優秀なようだ」  通訳のシドロフは、隼の交渉における態度は、これまで彼が出会った日本人のどのタイプとも違うと感じていた。そもそも、in-house legal(社内の法務)の人間が、営業より前に立って交渉することなどこれまではなかった。  「政府側は、まだ何か『隠...

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