[連載小説]戦う法務課長 第9話「企業買収編③ 交渉の帰結」

2013年6月27日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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記 憶

 

秋津製作所は、平剛三の父親とその友人が共同経営で始めた会社である。地方の町工場だったが、父親の代に開発された特許をもとに、希少価値のある自動車部品を提供する会社として、業界で注目されてきた。平が事業を引き継いで5年目、納入先の倒産で売掛金回収が困難になり、その際、部材仕入で取引のあった三島工商に金融支援を要請し、辛くも危機を乗り越えたことがあった。そのときに営業部員の隣に座っていた、目が充血した冴えない風体の法務担当課長の男が、今も妙に平の記憶に残っている。

法務や審査の人間は、「何が何でも個人保証に固執するもの」と思っていた。しかしその男は、取れる担保はすべて取るべき状況で、平の個人保証には一切言及しなかった。今回の窮地に際し金融支援を三島工商に頼まざるを得ないとしたら、もう一度あの男と話をする機会があるかもしれない。

 

熟 慮

 

「隼さん」

不安げな表情で営業課長が隼に問いかけた。乾も、隼が何を考えているのか皆目検討がつかなかった。

三島工商の思惑がはずれ、BIT社は秋津製作所に対する合併の詳細に入る前に、三島工商が持つBIT社製品の販売代理店権の取扱いの話を始めたのだった。営業サイドもその話題に触れることは予想してはいたが、交渉のこんなに早い段階で出たのは意外だった。加えて、相手側の女性弁護士エレーナ・イワノバの販売代理店権の取扱変更に関するプロポーザル(提案)は、三島工商には過酷ともいえるものであった。

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