[連載小説]戦う法務課長 第10話「債権回収編①」

2013年7月04日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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発  生

 


隼が法務課長を務める三島工商株式会社では、取引先に対する債権が支払期日を一定期間経過しても回収できない場合、あるいは取引先が倒産手続の申立を行った場合、夜逃げ等、事実上廃業したような場合に、営業部は「滞留債権事故報告書」を作成し、関係の職能部署へ報告しなければならない。ただ、取引先が国内にあれば、手形不渡処分、破産、裁判所への倒産手続の申立などにより、「事故」発生は、明確かつ即座に認識できるが、海外の場合、現地に三島工商の駐在員がいて、常時状況をウォッチしている取引先でもなければ、即座に状況がわかる、というわけにはいかない。また、品質、数量、納期、価格について、いわゆる難癖である「マーケット・クレーム」をつけて支払わない取引先もなかにはいる。

したがって、どうしても海外の取引先に対する滞留債権の処理は、後手に回ることが多い。

いずれにせよ、そうした滞留債権(隼は事故債権とよんでいるが)の回収については、滞留債権事故報告書が提出された時点で、隼たち法務のメンバーが所属する管理部に社内の権限が移る。以後、営業部は、取引先に対する債権回収対策の立案、実行にあたり、管理部の承認を得なければならない。また、事故が発生した場合は、社内規程違反の有無についての調査が、滞留債権事故報告書に基づいて行われるが、これには管理部は直接関与しない。ただし、隼は、これまで何度か出席を命じられ、意見を求められたことがある。

「エライことになった。明日の午後、空いてますかね?」

乾が電話をとった相手は、鉄鋼関連商品の輸出を行う鋼材貿易部の課長、新幸男である。新は、隼より3年先輩。学生時代はラグビーでならし、鋼材貿易部でもその体力、集中力を活かして、これまで連戦連勝の成績を出してきた。その新がすっかり意気消沈している。

「何か大変なことでも?明日の午後で間に合いますか?」

「今、いろいろ資料やデータを揃えているところだ。それがあったほうが、話が早い」

「いや、今手元にある情報だけでも聞きましょう。どうやら事故債権のようだからね。アクションは早ければ早いほどいい」

何かの本で債権回収は、最初にどれだけ必要な情報を集められるかがポイントだ、と書いてあったことを乾は思い出した。しかし、中途半端な情報だけでどうやってアクションをとるのだろうか。

 


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