[連載小説]戦う法務課長 第12話「債権回収編③」

2013年7月18日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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八方塞がり

 

イスタンブールの市街から空港へ向かう車中で、隼はトルコ側の当事者達との交渉内容を反芻していた。三島工商鉄鋼部門の稼ぎ頭である新が、政府系企業を事業主体とする建設プロジェクトに関連して下請のトルコの建設会社に納入した鉄鋼資材の代金支払が滞っている。理由は、建設プロジェクトが政府の一方的な判断により、一時中止となったためだ。隼は新とともに、建設会社のみならず政府系企業にも赴き、プロジェクト停止の措置はあくまでもトルコ側の事情でなされたものであるから、少なくとも納入された鉄鋼資材の代金は支払われるべきだ、と主張した。建設会社社長も同席して窮状を訴えたが、政府系企業はとりつくしまもない。建設会社から三島工商への支払いは、政府系企業からの支払いが条件となっていたことから、建設会社には三島工商への支払義務がいまだ発生していない。一方、三島は、鉄鋼資材の調達先には、すでに支払いを完了している。つまり、三島工商は「立替」状態にあり、新の部署は社内上立替金利を計上しなければならず、それが収益の圧迫要因となっている。

「やはり、らちがあかんな。全損だろうか?」

新がうなだれながら、隼に尋ねた。

「政府系企業と建設会社の契約では、発注者(=政府系企業)が、一方的に契約を解除する場合には、建設会社が被った損害の一切を支払う、と規定されている」

隼は、ゆっくりと、まるで大学で講義でもしているかのような調子だ。

「ところが、政府系企業は契約解除とは言わずに、プロジェクトが延期になったと言っている」

「そうなんだよな」

新があきらめたように言う。

ただし、政府系企業から建設会社への支払いは、いわゆる「progress payment」、すなわち工事の出来高に応じて支払われる条件となっている。したがって、建設会社には工事終了した部分については、政府系企業に対して支払いを請求する権利がある。

「政府系企業と建設会社、それとわれわれ三島工商をつなぐものが必要だ。政府系企業に対して、攻撃を仕掛けることができるような何かがね」

「新さん。私はこの後、ロンドンに行きます。先程、依頼していたものが出てこないかどうか、引き続き、フォローしてください」

新はすがるような表情で頷いた。

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