[連載小説]戦う法務課長 第17話「債権回収編⑧」

2013年8月22日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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昼 食



英国の法律事務所は、クライアントと食事をする場合、レストランを使うことが多かったが、往復の時間が無駄であることから、各事務所がもともと持っているパートナー用のダイニングルームで接待をすることが増えてきた。事務所内での打合せと何ら変わらない環境であり、同僚も紹介しやすい。『飛び入り参加』も自由である。料理の内容はレストランに及ばないが、ワイン好きのパートナーたちが音頭をとり、ワインリストは充実させているという。もっとも、シェフを入れ替えたりして、料理のクオリティも上げようと努力をしているようだ。

隼は、これまでの経緯を手短に説明した。契約書類は、すでに電子メールで送信済みである。

「なるほど。これからのスタイン社、いや,その裏にいる銀行団との交渉に備え、訴訟の準備をしておきたい、ということか」

隼とさして年齢が違わないであろうと思われるトーマス・ウィルソン弁護士は、デザートを断り、食後酒を何にするか思案しながら隼を見た。

隼は煙草に手をのばし、ゆったりとくつろいでいる。トーマスと同じように食後酒にするつもりだろう。この2人は、仕事の話はそっちのけで、ワインバーやパブの話ばかりしている。ようやく仕事の話に入った時には、すでに午後2時を回っていた。

スタイン社はもちろんのこと、銀行団も同社の再建を望んでいるが、このブラフともいえる隼の作戦に、どこまで相手が乗ってくるのか?乾は、隼のやり方に無謀さを感じていた。

「債権の存在自体に問題がなければ、訴訟自体はすぐに結論が出ると思うが、どうだろう」

まるで、念を押すかのように隼は尋ねた。

「支払猶予の交渉の過程で、残高を証明する書類は、取っているんだろう。その取得行為自体に問題がなければ、君の考えているとおりさ」

トーマス・ウィルソンは、食後酒として、梨で作られたグラッパをちびりとなめた。

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