[連載小説]戦う法務課長 第23話「新人教育編⑤」

2013年10月04日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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俯 瞰



中堅総合商社ミシマの化学品部門における海外戦略は、アジアに関して、4つの活動拠点を構えている。すなわち、中国、フィリピン、タイ、ベトナムである。インドにも進出しようとしているが、まだ、会社経営陣の判断は取れていない。現拠点での収益体制を磐石なものにすることが、最優先課題といわれている。

間は、拠点の1つであるベトナムの駐在員である。ベトナムの化学品会社SDF社とのジョイント・ベンチャーであるミシマ・SDF・ケミカルコーポレーション(略して「MSC」と社内では呼ばれている)に、財務、経理の担当重役として出向している。販売に関しては、SDFより派遣されている者が担当重役であるが、間は、その担当重役を補佐する立場にもある。

商社マン、しかも営業畑一筋の間にとって、当初、会社の財務・経理を監督することは苦痛であった。駐在前に、社内の財務、経理担当者より、赴任前レクチャー(たった1日であったが)を受け、また、自分でも財務・経理関係のノウハウ本を買い込み、暇をみつけては読みあさった。会社に入って、こんなに集中して勉強したのは、初めてである。いや、大学受験に失敗し、予備校に通っていたとき以来かもしれない。

その結果、赴任後数カ月で、間は、なんとなく会社の業績や状況を財務・経理の目でみることができるようになった。自分でも驚きであった。国内の中小化学品メーカーを走り回り、ひたすら接待に明け暮れた日々とは異なり、何となく「経営者」的な視点を持つようになったのである。

かつては、自分の取扱商品の売上を伸ばせばよい、と考えていた。ところが、ここでは、会社全体がうまく回っていくにはどうしたらよいか、ということを常々考えている。東京本社に対するレポートにも、そうした観点からの、間なりの提案が盛り込まれるようになっていった。

本社側がどれだけ評価・考慮しているのかはわからないが、先週、東京より視察にきた化学品部門長の質問に対して、てきぱきと答えられた自分に、次第に自信が芽生えてきていることを自覚した。

自分は、単なる「売り子」ではない。部門長をふくめ、これまで、会社経営陣などは、雲の上の存在と思っていたが、ベトナムに赴任して以来、それは手が届かないものではなく、ある程度、射程距離に入ってきたという感覚を持つようになった。

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