[連載小説]戦う法務課長 第26話「新人教育編⑧」

2013年10月24日| 北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
コラム トラックバック (0)

初出張

 

隼は、中堅総合商社ミシマの法務部の部長補佐(法務課の課長を兼務していたので、自分では実質的に課長であると思っている)である。この4月に組織変更があり、また、コンプライアンス部が新設されたことで、隼は法務とコンプライアンスの双方を見よ、ということになっている。

部下は、外資系企業の法務部から転職してきた乾美和、この4月に新入社員として配属された堺健介と湊蓉子である。乾と堺に留守を任せ、隼は湊とベトナムに出張にきている。

思えば、出張につぐ出張の日々を過ごしてきた。出張は、日常業務から解放されるというリラックスした面がある一方、必ず何らかの成果を出さなければならない。単なる物見遊山の出張などないのだ。相手側との交渉、重要な事実の確認、法律上の手続の完遂…。

出張は、たいていは、営業の人間に同行する形となる。普段、あまり立ち入った会話をしたことのない相手と、ある一定期間「濃密」な関係を過ごす。そこでお互いを理解しながら、共通目標の達成のために、それぞれの立場で機能を発揮していく。

よく、「100回の練習より1回の実戦」と言われる。練習を何回重ねても、あまり力は伸びない。

それより、短期間でもよいから「出張」という実戦をこなすことで、地力が鍛えられる。知らぬ間に、法務マンとして必要な「度胸」と「集中力」が醸成される。

隼の初出張は、群馬県にある鉄骨加工会社だった。ミシマがまだ三島工商であった頃、同社は三島工商から鋼材を購入し、加工して販売していた。

ところが、経営が思わしくなく、ついに任意整理で廃業することになった。隼は、顧問弁護士事務所の若手弁護士とともに、同社へ赴き、商品の引き揚げ、譲渡担保の設定、過剰な債務の整理を行った。つまり、任意整理である。

隼は、1週間、同社に張り付き、担保物件の処分、債権債務の整理を行い、どうにかこうにか手仕舞いを終えたが、予想外の事態、土壇場にきての社長の弱気、債権者間の争いにどっぷりとつかり、緊張の連続であった。日に何度も上司に電話を入れるが、つど、返ってくる指示は、「自分のベストのアイディアをもってこい」だ。同行している弁護士とともに、知恵を絞り、何とか期日内に所定の作業を完了させる。胃が痛くなるような日々であった。

しかし、任意整理にめどがつきはじめ、関係者の表情にもほっとしたものがみえるようになった頃には、隼は自分が階段を45段あがったような気がしていた。もっともっと、自分にはいろいろな可能性がある、ということを実感したのである。

>>続きを読む

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL: http://businesslaw.jp/cgi-bin/mt2/mt-tb.cgi/160