[連載小説]戦う法務課長 第27話「新人教育編⑨」

2013年11月01日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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逡 巡

 

堺は、乾の指示で営業担当者向けのQAの作成にとりかかった。とりあえず、先に出した16問分について、簡単な解説のたたき台を作ることを考えている。

今まで、電話やメールでそれなりに営業からの問い合わせに答えてきたつもりだが、いざ、社内のマニュアルとしてかたちに残るようなものを作るとなると、自分にはまだ荷が重いのではないか、と堺は思ってしまう。

乾によれば、隼にメールで報告したところ、堺がQAをまとめた上で、社内の中堅社員法務研修で説明するように、という指示だったそうだ。

中堅社員法務研修とは、新任課長代理または主任クラス、いわば油がのりはじめた活きのいい年代の社員を集め、法務的な内容についての研修を行うものだ。堺はどんな研修か見たことはないが、営業マンでいえば海千山千の連中が集まり、たとえ法務の人間といえども、ぼやぼやしているとどやしつける世代である。そういう連中の前で、新入社員の自分が「法務研修」などできるのだろうか、と堺はやや暗い気持ちになった。だが、とにかくこのQAは仕上げなければいけない。

「堺君。自動車部から電話だよ。たぶん、同期じゃないの?」

乾の言葉に、堺はわれにかえった。そういえば、今日は同期の飲み会である。

「悪い。まだ出られそうにない」

「何やってんだよ。もうそろそろ二次会の場所に移動するぞ」

同期は、かなり酒が入っているようだ。

「新人の法務担当者が、夜の9時にオフィスを出たところで、誰もとがめやしないさ。たまには、気分転換も必要だぞ」

お前は常に気分転換してるな、言いかけたが、堺は机上のノートパソコン画面のメール受信メッセージを見ながら違う言葉を選んだ。

「ああ、なんとか間に合うように努力する」

まずは、QAにめどをつけてからだ。

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