[連載小説]戦う法務課長 第31話「新人教育編⑬」

2013年11月29日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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反 芻

 

SDF社販売担当重役は、もう一度、自分が描いたシナリオを反芻していた。

タイの化学品メーカーからの出資を仰ぎ、ミシマの出資比率を下げる。当然、タイの化学品メーカーは、出資比率に応じて現在ミシマが金融機関に差し入れている保証に対して、裏保証を差し入れる。保証なので、実際にただちに現金を拠出するわけではない。そして、原料供給、輸出ともに、ミシマが独占していた分を新しい出資者に振り分けることで、なるべくSDF社のコントロールを深める。そのうち、ミシマは撤退を考えはじめる。

みずから撤退する場合には、株式をジョイントベンチャー・アグリーメントの他の当事者に適正価格で譲渡することになっている。現在、合弁会社は累積損失に喘いでいるので、株式の価値はあってないようなものだ。保証および原料の買掛債務については、保証についてはタイの化学品メーカーとSDFで折半することで話がついている。

これも、ミシマから株式を放棄させたことの見返りである。原料の買掛債務については、どうにかこうにか引き伸ばすことは可能だろう。まさか訴訟までしてくることはないだろう。

SDF社販売担当重役は、このシナリオにいささかの不安も抱いていなかった。あの、日本から出張で来たという法務部の男に会うまでは

部下が、彼の部屋のドアをノックした。そろそろミシマとの会議が始まる時間だという。どうやら、ミシマの面々はすでに到着しているようだ。

とにかく、ここが正念場だ。彼は、自分を奮い立たせるがごとく、冷たくなったコーヒーを飲み干した。

 

再 開

 

 空調のきいた会議室には、前回と同じメンバーが顔をそろえている。SDF社販売担当重役としては、長々と議論する気はなかった。ミシマに選択肢はないはずだ。日本企業は、損失が明るみになるのをできるだけ遅らせたい、という思考パターンで動いている。ましてや、現地で交渉している人間に、多額の損失が発生するような選択肢をとらせる権限など付与するはずがない。彼は、そう読んでいた。その「読み」の正しさが今実証されようとしているのだ。

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