[連載小説]戦う法務課長 第34話「新人教育編(16)」

2014年1月03日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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ある早朝

 

中堅総合商社ミシマ法務部の新入社員の湊は、最近、早朝出社をすることにした。書店で見かけた早起き関連の書籍をいくつか立ち読みするうちに、早朝の時間をうまく使うと仕事の効率が上がるのではないか、という気がしたからだ。湊の住むアパートから会社までは、電車で約45分。車中も座って本が読めるようにと、始発に近い電車を選ぶようになった。昔読んだ企業法務をテーマにした小説のなかで、登場人物が早朝から竹刀の素振りを行った後、我妻榮の「民法講義」を読む、というシーンがあった。そこまで、ストイックな早起きは自分には無理だ、と思いながらも、夜型から朝型へ生活パターンを変えることにした。

まだ頬に当たる空気が冷たいなかを駅まで歩く。始発から2本目の電車に乗る。確かに、早朝の車中は新聞でも本でも結構集中して読める。ノートパソコンを開いても回りの迷惑にならず、簡単なメールの返信文くらいは書けてしまいそうだ。最寄駅を降りて会社まで歩く。普段とは何か違った感じがする。誰も歩いていない道を歩くことに、少なからず快感を覚える。なんだか、今日はすべてが段取りよく、うまく行きそうな気がする。近所のコーヒーショップで、アメリカンをテイクアウト。そのままエレベーターにのり、法務部のある16階へ。喧騒とむせ返るような熱気の昼間のオフィスとは違う。深夜残業しているときとは違う清々しさが感じられる。

「おはよう、早いね」

後ろからいきなり声をかけられて驚いた。隼である。隼も早朝出社しているのか、と湊は思った。

「おはようございます。隼さんも随分と早いですね。やはり、始発ですか?」

「いや、実は帰りそびれちゃってね。家に帰るのも面倒だから、そのまま会社に泊まりこんだんだ。さっき、早朝サウナに入ってきてね。30分ほど仮眠したよ」

湊は、近所のカプセルホテルがサウナだけのサービスをやっていることを、時々配布されているチラシで知っていたが、まさか隼が利用していようとは思わなかった。

「結構、社内で利用している人はいるよ。時々、喫茶コーナーで打ち合わせがはじまっちゃったりするけど」

私の知らない世界だ。湊は嘆息をついた。

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