[連載小説]戦う法務課長 第35話「新人教育編(17)」

2014年1月10日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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報 告

 

中堅総合商社ミシマは、財務状況を改善し、また銀行からの融資にはなるべく頼らず、自前でビジネスのための資金を創出すべく、保有する融資債権や投資先の株式を売却する社内決定を行った。ただし、決定内容は、創出する目標金額を定めるとともに、売却に伴うロス(損失)の大まかな金額を見込んでいた。

融資債権の売却にあたっては、額面金額より低くなることは避けられない。財務部資金課の課長で、今回の資産売却のリーダーである峰は、今朝も財務担当役員の部屋に呼ばれた。進捗状況を報告するためである。

「現在、ドイツの投資銀行であるクラインゲルドからのオファーを待っているところです。すでに、秘密保持契約(Confidentiality Agreement)を締結し、必要な情報は開示してあります。現在、彼らなりに資産の査定を行っているところでしょう」

「どのくらいで、オファーが出てくるものなのかね」

峰は、少し考えた。実は、なるべく早く、としかクラインゲルドからは返事をもらっていない。

「なんとか今週中には、感触だけでももらおうと思っています。なにしろ、融資債権の概略だけを述べたリストを渡しただけで、その根拠となる融資契約書、担保関係の書類等は、まだ何も渡していません」

上司に、あまり馬鹿正直に報告するのもどうか、という思いが峰にはある。今日学校であったことを得々として語る小学生のようなやり方は自分にはできない。

財務担当役員は、峰のほうをちらりとみながら、手元の書類に目を通した。

リストの3分の1は、いわゆる優良債権といわれるもので、返済にもまったく問題がない。所定の金融収益をしっかりとあげることができるだろう。しかし、実はどうしようもないものも残りには含まれている。

「実際に売却が始まるとなると、債務者、つまり取引の相手方には、相当きびしい話をしなければなりません。そのあたりは、営業部門のトップから下におろして頂かないと、現場が混乱します」

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