[連載小説]戦う法務課長 第36話「新人教育編(18)」

2014年1月24日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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秒読み

 


中堅総合商社のミシマは、財務状況を改善し、自前でビジネスのための資金を創出すべく、保有する融資債権や投資先の株式を売却することを決定した。融資債権のなかには、優良なものもあるが、いわゆる回収が滞り、社内的には「塩漬け案件」と言われている不良債権も含まれている。

ミシマとしては、投資家に対する説明上、こうした不良債権を順次整理していくことを示していかねばならない環境にあった。いわゆる「臭いものには蓋」をできる時代ではなくなったのだ。

ミシマの経営陣は、財務体質の改善・強化と投資家への説明責任という重い命題をつきつけられた結果、(外部のコンサルタントのアドバイスもあったのだろうが)優良債権を含む相当の資産を売却することに踏み切った。

社内では、従来の取引関係を破壊する決定だと、息巻く者もいたが、背に腹はかえられぬ状況であることを悟るうちに、そうした反対の声は、表面だっては出なくなった。

「カウントダウン(秒読み)」と社内の一部の関係者の間ではいわれていた。債権の売却をいつ行うのか、ということである。関係する営業部門の部門長には、売却予定対象の資産および融資先のリストが、「極秘」という朱印をおされて配布されていた。リストに記載された以上、売却は至上命令であり、抵抗が許されるものではなかった。

部長クラスの何人かは、取引関係の維持を理由に売却に反対し続けた結果、ポジションを異動させられた。いや、そうとはっきりわかるかたちではなないが、後任の部長はいずれも、資産売却に積極的であった。

資産売却なくして、体質の健全化はない。ミシマの社長は、社内メールで社員一斉にメッセージを送った。その内容は緊張感に満ちたものであったが、社外の第三者がみたら信用不安を感じるのではないかと懸念する者もいた。

いずれにしても、社内の雰囲気は殺伐としてきたといってよい。

 


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