[連載小説]戦う法務課長 第38話「新人教育編(20)」

2014年4月03日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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命 運

 

今、「キロ」といえば、中堅総合商社ミシマのなかで命運をかけたプロジェクトであるという理解は、その内容がミシマが保有する優良・不良の投融資債権を売却し、バランスシートの改善とキャッシュフローの向上を狙ったものであるということ以外、詳細はまったく明らかにされていない。人の口に戸は立てられぬというが、今回のミシマ社内における情報管理は、かなり徹底されており、少なくとも、現在までは、その狙い通りとなっている。つまり、詳細は開示することなく、社内に緊張感をもたらすことに成功していた。

プロジェクトの管理を担当している財務部門の峰のチームと一緒に、隼のチームは動いていた。売却候補のドイツ系証券会社クラインゲルドとConfidentiality Agreement(秘密保持契約)を締結し、売却対象候補の投融資債権リストを渡したが、クラインゲルド側は、さらに詳細情報を要求してきている。彼らにとっては、いかに安く買い叩けるか、いや、いかに高く売却できるかの査定を厳しく行う必要があるからだ。

クラインゲルド東京支店のカール・ヒュッテルは本社からの強烈なプレッシャーに耐えながらも、今のところミシマに対して優位な立場で交渉を行っている。なにしろ、ミシマとしては「売却しなければならない」という至上命題があり、クラインゲルドとしては、「価格が折り合わなければ購入しなくてもよい」という割りきりがあるからだ。売却が成立しない場合、本社としてはカールのボーナスを減らすか、あるいは、彼のポジションをなくせばよいだけの話である。しかし、カールにとっては大問題であり、なんとかスケジュールどおり成立させたいと思っているのは、ミシマ側と一緒である。

このディール(取引)を成立させるためには、膨大なドキュメントワークが必要となり、法律事務所の起用は必須である。隼が話をしている法律事務所は本国での合併騒ぎに加え、クラインゲルド本社が本国の事務所を正式に起用した。これにより、田は立場上、ミシマに対して、このディールにおいてアドバイスすることはできなくなってしまった。いわゆる利害対立(Conflict of Interest)が生じるからだ。

隼としては、旧知の間柄である田のサポートが今回は必要だと考えている。債権売却の取引は、決して華々しいものではない。刻々と変化する状況に応じて最適の手段を次々と打ち出すバイタリティが必要だ。田には、そうしたバイタリティが溢れていた。隼は、田と自分のチームが一緒に仕事をすることによって、特に若い二人、湊や堺が大きく飛躍することを期待しているのだ。

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