[連載小説]戦う法務課長 第39話「新人教育編(21)」

2014年4月21日|北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役
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様変わり


隼は、田からのレターを受け取った。ハーバート&モリスのレターヘッドではなく、田の新たな事務所であるクライド&ケインのものであった。田の事務所は、ハーバート&モリスから分離し、クライド&ケインの日本事務所となったのだ。同事務所は英国に本拠地があるが、これまで日本に拠点がなかった。一方、ハーバート&モリスが吸収合併した事務所にも東京に拠点があり、いずれどちらかに統合されることになった。

田の事務所は、吸収先の東京事務所に統合されることになったのだ。田としては、別に事務所の主導権を握ることに執着していたわけではない。しかし、今回は統合されてしまうと、吸収先の事務所の重要クライアントとミシマの仕事には、利害が対立してしまう。いわゆるコンフリクトが発生するのだ。

ただし、田としても、それだけで今の事務所を飛び出す理由はない。彼にとって、今回の統合によって自分が根をおろして仕事ができる環境にはならないだろう、という直感的なものもあったのだ。そこで、東京進出を目論んでいたクライド&ケインのマネージング・パートナーに、東京事務所ごと買わないか、という話をもちかけに行った。そのパートナーは、以前より田に事務所を移籍してこい、と誘っていた人物だ。田は、非常識は覚悟の上で、事務所売却の話をまとめ、古巣に事務所売却の提案をした。ハーバート&モリスにしたところで、いずれ2つの東京事務所を統合する必要があったこと、新しくなる東京事務所においては、システムの統合など何かとコストがかかることもあり、今回の売却は、実は願ったりかなったりの話であった。田を育てたマネージング・パートナーであるリチャード・オファーは田が事務所を離れることを本当に悲しんだが、それ以外の弁護士はさほどとも思っていない。自分のニーズや好ましい環境を求めて事務所を移転することは、この業界ではよくあることだからだ。

こうして、田がロンドンから帰国してわずか1週間後に、クライド&ケインの東京事務所が完成し、まさに隼が受け取ったレターは、新事務所開設の案内状とお披露目レセプションパーティーの招待状であった。また、同事務所のロンドンや香港、シンガポールなど他のアジアの拠点からも多数の弁護士が出席する、と書かれていた。

 隼は、自分だけでなく、部下の連中もつれて行こう、と思った。一昨日、歯の治療をしたばかりで、まだ痛みが残るが、こうした催し事にはできるだけ参加したほうがいい。思わずばったりと旧知の人間に会い、期せずして有益な情報や古い知り合いの消息を知ることができる。歯医者からは、なるべくアルコール類は控えるように、という指示が出ていたが、やむをえない。隼はそうみずからに思い込ませた。

 


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