コラム

[連載小説]戦う法務課長 第33話「新人教育編(15)」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

部内会議   中堅総合商社ミシマの法務部のメンバーが久しぶりに揃った。出張から戻ってきた隼は、急に部内会議をやろうと言い出した。 出張から戻ってきたら、出張中に溜まった業務を処理して通常のペースに戻るには、出張日数の2倍の日数がかかる、というのが、いつもの隼の口癖であったから、しばらくは、黙々とデスクの上にある申請書やら回覧、郵便物に目を通すかと乾は思っていた。しかし、隼は、手早く急ぎの申請書に目をとおし、社内にいくつか電話をかけた後、会議が招集されたのだ。 隼が、部内会議を開くことは...

[連載小説]戦う法務課長 第32話「新人教育編⑭」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

貿 易 貿易と国内取引の違いの1つに決済方法がある。国内取引において利用される決済方法は、現金(銀行送金を含む)、手形、小切手が主なものだ。堺は、入社時の新入社員研修で渡された貿易実務の詳細で分厚い資料の最初の記述を思い出していた。国際的な取引においては、信用状(Letter of Credit、通称「L/C」)がよく利用される。これは、例えば、二国間の貿易取引において、取引関係にある銀行間の決済機能を利用する方法だ。つまり、輸入国の銀行が、信用のおける輸入者のかわりに輸入代金を支払う...

[連載小説]戦う法務課長 第31話「新人教育編⑬」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

反 芻   SDF社販売担当重役は、もう一度、自分が描いたシナリオを反芻していた。 タイの化学品メーカーからの出資を仰ぎ、ミシマの出資比率を下げる。当然、タイの化学品メーカーは、出資比率に応じて現在ミシマが金融機関に差し入れている保証に対して、裏保証を差し入れる。保証なので、実際にただちに現金を拠出するわけではない。そして、原料供給、輸出ともに、ミシマが独占していた分を新しい出資者に振り分けることで、なるべくSDF社のコントロールを深める。そのうち、ミシマは撤退を考えはじめる。 みずか...

[連載小説]戦う法務課長 第30話「新人教育編⑫」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

一 考ベトナムでのジョイント・ベンチャーのパートナーであるSDF社との交渉は、一筋縄ではいかない。ミシマとしては、即時撤退と言い放つことは、多額の損失を明るみに出すことになる。そのことは、現在、平行して進められているプロジェクトへの資金投入に大きく影響する。会社の判断としては、損失の穴も埋めないで、あらたな投資を実行するなど認めるわけがない。柴は、そう確信していた。かといって、SDF社のプロポーザルをすべて飲むことは、ミシマのアジアにおける化学品戦略上、大きな後退を強いられることになる。合弁会社...

[連載小説]戦う法務課長 第29話「新人教育編⑪」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

画 餅 もともと、製品の製造が当初の予定数量に達していないことが、合弁会社の利益不振の原因だ、と柴はみていた。投資決裁に関する書類をみたが、現物出資される機械設備が老朽化している点を懸念する意見はあるものの、追加設備投資金額の部分については、「当面、様子見」とい結論になっていた。すなわち、とりあえず、今ある設備でできるところまでやれ、という判断であったようだ。合弁会社の利益と製造の効率は最も直接的に関係してくるものであり、製造や原料調達に関わるコストをいくら減らそうとも、収益の源泉であ...

[連載小説]戦う法務課長 第28話「新人教育編⑩」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

反 響 堺が作成した国際取引に関する営業担当者向けのQ&Aを社内のイントラネットに公表したところ、多くの問い合わせがあった。社内の連絡先を堺の電話番号にしたからだ。あらかじめ想定される質問とその回答をイントラネットに掲載することで、業務の効率化を図ろうと思い、作成したのだが、かえって、その後の対応に多くの時間がとられるようになった。堺は、通常業務に加えて、イントラネットに掲載したQ&Aの更新に追われる毎日となった。実は、これこそが、隼の狙いであった。人は何か一つの作業に集中して...

[連載小説]戦う法務課長 第27話「新人教育編⑨」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

逡 巡   堺は、乾の指示で営業担当者向けのQ&Aの作成にとりかかった。とりあえず、先に出した16問分について、簡単な解説のたたき台を作ることを考えている。 今まで、電話やメールでそれなりに営業からの問い合わせに答えてきたつもりだが、いざ、社内のマニュアルとしてかたちに残るようなものを作るとなると、自分にはまだ荷が重いのではないか、と堺は思ってしまう。 乾によれば、隼にメールで報告したところ、堺がQ&Aをまとめた上で、社内の中堅社員法務研修で説明するように、という指示だったそうだ。 中...

[連載小説]戦う法務課長 第26話「新人教育編⑧」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

初出張   隼は、中堅総合商社ミシマの法務部の部長補佐(法務課の課長を兼務していたので、自分では実質的に課長であると思っている)である。この4月に組織変更があり、また、コンプライアンス部が新設されたことで、隼は法務とコンプライアンスの双方を見よ、ということになっている。 部下は、外資系企業の法務部から転職してきた乾美和、この4月に新入社員として配属された堺健介と湊蓉子である。乾と堺に留守を任せ、隼は湊とベトナムに出張にきている。 思えば、出張につぐ出張の日々を過ごしてきた。出張は、日常...

[連載小説]戦う法務課長 第25話「新人教育編⑦」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

入 社   今、自分がまがりなりにも法務部の部長補佐(実質的には課長であったが)としてこなしている毎日の仕事を振り返ると、不思議な気分になる。本当にこれが「やりたいこと」だったのか…。 隼が、中堅総合商社ミシマ(当時は、三島工商といっていたが)に入社したのは、1984年。当時は、バブルに向かう過渡期であり、総合商社は花形的な存在であった。隼は、別に商社を希望していたわけではない。が、大学近所の喫茶店に貼られた「就職説明会」の案内を見て、交通費と食費が出るならと、物見遊山で出かけたのであ...

[連載小説]戦う法務課長 第24話「新人教育編⑥」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

口 伝中堅総合商社ミシマの法務部に配属された堺健介と湊蓉子は、隼から2人の面倒をみるよう指示を受けた乾の指導を受けている。乾は、2人にミシマの法務部がかつて作成した英文契約書式集を素材に、国際取引契約に関する基本を学び取ろうとしている。そんな2人と乾を連れて、隼はなじみの小料理屋で、饒舌になりすぎないように注意しつつ杯を重ね、法務マンとしてのマインドを伝えようとしている。隼が若かりし頃は、残業の後、先輩社員や上司と呑みに行くのが日課だった。呑みに行くといっても、新入社員や若手は一切気がぬけない。...