コラム

[連載小説]戦う法務課長 第23話「新人教育編⑤」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

俯 瞰中堅総合商社ミシマの化学品部門における海外戦略は、アジアに関して、4つの活動拠点を構えている。すなわち、中国、フィリピン、タイ、ベトナムである。インドにも進出しようとしているが、まだ、会社経営陣の判断は取れていない。現拠点での収益体制を磐石なものにすることが、最優先課題といわれている。間は、拠点の1つであるベトナムの駐在員である。ベトナムの化学品会社SDF社とのジョイント・ベンチャーであるミシマ・SDF・ケミカルコーポレーション(略して「MSC」と社内では呼ばれている)に、財務、経理の担当...

[連載小説]戦う法務課長 第22話「新人教育編④」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

環 境   隼太郎は、中堅総合商社ミシマの法務部部長補佐である。極度の喫煙癖とややアルコール依存の体質であり、オフィスを抜け出しては近所の喫茶店で書類をみたり、打合せをすることが多い。会社として、就業規則上問題がないとはいえないが、隼が、雇用契約上従業員に求められる「職務専念義務」を果たしていることについては、人事を含め、関係部署の人間達は認めざるをえない。 隼自身、自分の欠点は十分にわかっているが、身についたリズムというか,習性を変えることは難しい。結局は、「自分らしさを活かしながら...

[連載小説]戦う法務課長 第21話「新人教育編③」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

始 動   社名が、「三島工商株式会社」から「ミシマ」へと変わり、あらたに法務部が独立した組織となった。隼太郎は、部長補佐に昇進…といっても、実際に行なっている業務は課長職の頃と大差ない。一方で、隼は新設された「コンプライアンス部」の部長も兼務している。 現在の法務組織は、隼と乾美和の2名しかいない。さすがに、会社もこれではまずいと思ったのか、ヘッドカウントを2名追加することになった。しかし、法務を管掌する管理本部長の意向で、その2名は即戦力を中途採用するのではなく、今年入社した新人の...

[連載小説]戦う法務課長 第20話「新人教育編②」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

『調達資金』隼は、自分でも少しずつ熱が入っていくのがわかった。思ってもみなかったことだが、つまり、若者とのこうした掛合いが楽しいのである。面倒なことでしかないと思っていた新入社員向け研修の講師がこれほど興味深いとは、まったく予想していなかった。「さきほど、乾さんが言われた『調達資金』、というのは何でしょうか?」ミシマが、中国の製造業者から商品を購入し、韓国の販売業者へ販売するいわゆる「三国間取引(仲介取引)」が成立する理由が、ミシマの「商社金融」機能にあると発言して隼を驚かせた若者が、再び質問し...

[連載小説]戦う法務課長 第19話「新人教育編①」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

変 化   三島工商株式会社は総合商社である。規模は財閥系には及ばないものの、社員数は2,000名弱で、エネルギー、プラント、重機械、船舶・航空機、化学品、物資、繊維、食料と一通りの産業分野をカバーしている。国内取引よりは、海外での取引であげる収益のほうが高い。小回りがきくので、地道に利益を積みあげるタイプの商社であると業界誌の記者達には思われているようだ。ただし、時として、商社特有の荒っぽい取引もあり、せっかくの収益を特別損失で帳消しにしているという指摘もある。 三島工商は、年明けに...

[連載小説]戦う法務課長 第18話「債権回収編⑨」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

佳 境   ミシマ・ヨーロッパの取引先であるスタイン社が、リード銀行の主導で再建計画を策定中である。スタイン社と三島工商本社は、同社の持つ台所用品または生活関連用品の輸入・販売を行う合弁事業を企図していたが、スタイン社が事実上、銀行管理下に入ったことで、交渉が中断している。 ミシマ・ヨーロッパは、スタイン社に対して売掛金があり、その回収が危ぶまれている中で、売掛金の一部カット、残額の繰延弁済、あるいはスタイン社の株式との交換(デッド・エクイティ・スワップ)の返済計画を持ち出してきた。こ...

[連載小説]戦う法務課長 第17話「債権回収編⑧」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

昼 食英国の法律事務所は、クライアントと食事をする場合、レストランを使うことが多かったが、往復の時間が無駄であることから、各事務所がもともと持っているパートナー用のダイニングルームで接待をすることが増えてきた。事務所内での打合せと何ら変わらない環境であり、同僚も紹介しやすい。『飛び入り参加』も自由である。料理の内容はレストランに及ばないが、ワイン好きのパートナーたちが音頭をとり、ワインリストは充実させているという。もっとも、シェフを入れ替えたりして、料理のクオリティも上げようと努力をしているよう...

[連載小説]戦う法務課長 第16話「債権回収編⑦」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

推測の続き   英国スタイン社から、ミシマ・ヨーロッパに対する債務の弁済について、支払猶予要請がなされたことにいかに対応するか。東京の営業部より依頼を受け、検討していた三島工商法務部課長の隼、担当の乾は、ミシマ・ヨーロッパの駐在員である谷から、スタイン社の主要取引銀行であるリード銀行が主導で、同社の再建が予定されているらしい、との情報を得る。 ミシマ・ヨーロッパのスタイン社に対する債権額は、売掛金が135万ユーロ、前渡金が20万ユーロで、総額155万ユーロ。そのうち、まもなく期日が到来...

[連載小説]戦う法務課長 第15話「債権回収編⑥」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

緊急連絡   隼は、なかなかつかまらなかった。乾は、そろそろ終電の時間が気になり始めた。もうしばらくしたら、オフィスを出ないと間に合わない。 その時、電話が鳴った。 「やあ、乾さん。遅くまでやってるね」 隼の落ち着いた声。乾は、ロンドンの谷から電話があったことを伝えた。 「どこで、どう調べたかわからんが、直接電話がかかってきたよ。会社として個人情報の管理はどうなっているのか、と疑いたくなるね」 「谷さんと、お話をされましたか?」 「スタイン社から、支払猶予の要請がきたらしい。詳しいこと...

[連載小説]戦う法務課長 第14話「債権回収編⑤」
北島敬之 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社/代表取締役

電話会議(Conference Call)  午後3時55分。指定された会議室へ隼と乾が入ってきた。会議室には、営業部の岸、若手の原、それから財務部の郷と経営企画の堺がいた。 何かある。郷や堺が同じ会議に顔を連ねることなど滅多にない。二人とも、部を代表するエース級の課長であり、多忙を極めている。隼も、この2人と同じ会議に出ることはほとんどない。 「いやあ、お忙しい皆さんにお集まり頂いて、申し訳ない」 岸が、会議電話用の機器を机の上にセットしながら、説明をはじめた。 「今日の午前11時、...