[Focus]日本版フェアユース規定の導入でビジネスは変わるか?(1)

2009年6月04日|中山信弘 弁護士・東京大学名誉教授
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08年10月、政府の知的財産戦略本部に設置されたデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会は、日本版フェアユース規定を導入することが適当である、とする報告案をまとめた。今後、具体的な規定のあり方等について、文化庁での審議会に委ねられることになる。
注目を浴びている日本版フェアユース規定であるが、導入された場合の影響については論者により見方が異なるところだ。編集部では、日本版フェアユース規定の導入論議をリードしてきた中山信弘氏と上野達弘氏、著作権法の実務に詳しい弁護士の内藤篤氏と伊藤真氏にビジネス面での影響を中心にお話をうかがった。
(Business Law Journal 2009年1月号および2月号に掲載)



photo01著作権者の利益を害さずに
社会全体の便益となるビジネスを救う


―― なぜ「日本版フェアユース規定」が必要なのでしょうか。
 どの法律の根本にもフェアという観念があり、裁判官はその観念を基礎に法解釈しています。著作権法上、形式的には権利侵害にあたるけど、どう考えても侵害と判断するのはおかしいという事件も多く、裁判官は苦労して既存の概念を柔軟に操作することで侵害を否定しています。フェアユース規定ができれば、そのような事件が楽に処理できるようになるでしょう。ただ、それだけではあまり大きな効果はありません。私が考えているのは、それにプラスして、ネットビジネスを何とかしてあげたいということです。
 現在の著作権法は元来インターネットを想定してつくられているものではありませんから、今、ネット関係のビジネスを行おうとすると、形式的な複製権侵害をはじめとした著作権上の問題が非常に生じやすくなっています。今の法律ではそれらは権利侵害と言わざるを得ないし、実際に裁判例で侵害とされているものもたくさんあります。
 しかし、ネットビジネスは時間が勝負ですから、国会による法改正を待っていてはとても間に合いません。日本でダメならアメリカに行ってビジネスをしようということになってしまい、資源のない日本にとって大事なネットビジネスを潰してしまうことになります。だから、フェアユース規定を早期に入れる必要があると考えています。09年の通常国会で日本版フェアユース規定を入れて欲しいと願っておりますが、若干雲行きが怪しくなってきました。その次の国会では何とか成立させて欲しいものです。

―― ビジネスよりも、主に非営利目的での利用が想定される、とする見解もあります。
 私は日本版フェアユース規定の基本的な考え方や判断にあたって考慮すべき要素は、アメリカと似たようなものでいいと思っていますが、アメリカでは、営利だから絶対にフェアユースにならいというものではありません。
 営利目的かどうかはフェアユースの一つの判断材料になるでしょうが、営利だからフェアユースにならないということでは新しいビジネスの芽を摘んでしまいます。それでは導入する意味がないですね。

―― フェアユースにあたるようなビジネスユースとは、どのようなものでしょうか。
 Googleのような検索エンジンが典型的なものですが、フェアかどうかの判断は個別具体的ですから、このようなものであればセーフとかアウトとは一概にはいえません。それがフェアユースの妙味です。
 ネットビジネスの中にも、権利者のマーケットと競合するような利用の仕方もあれば、権利者の収入が減るわけではないような利用の仕方もたくさんあると思います。今の著作権法では形式的に侵害していれば権利者に損害が生じるか否かにかかわらず著作権侵害となります。
 しかし、社会全体が便益を受けているのか、本当に著作権者の利益を害しているのかということまで含めて考えれば、著作権侵害ではないとして救ったほうがいいビジネスというのもいっぱいあると思います。

―― フェアユースが認められにくい分野はありますか。
 基本的に、権利者とマーケットで競合するような利用はフェアユースにあたらないと考えられます。アメリカでも潜在的マーケットを侵していないかが考慮要素にあがっています。ですから、他人の音楽や映像をつなぎ合わせたコンテンツの二次利用はフェアユースにはあたらない可能性が高いでしょう。
 また、個々の権利者と契約でやればうまくいくような分野は、フェアユースになりにくいカテゴリーのものだと思います。フェアユースとして認められるかどうかを考えるにあたっては、トランザクション・コストが大きな意味をもっています。ネット上には多数のウェブサイトが存在しており、検索エンジン事業者が世界中のサイト運営者と契約することは実質的に不可能ですから、フェアユースの適用が考えられます。他方、権利処理団体があるような場合にはフェアユースを認める必要性は低いといえるでしょう。

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