[Focus]日本版フェアユース規定の導入でビジネスは変わるか?(2)
2009年6月05日|内藤 篤 弁護士| インタビュー | コメント (0) | トラックバック (0) |
中長期的な観点から法的インフラの整備として必要
―― 映画・音楽業界にとって、フェアユース規定の導入は望ましいことでしょうか。
プラスになることはあっても、マイナスになることはあまり考えられません。もちろん個人の考え方次第ですから、もっぱら権利者として許諾することばかりを意識している業界人などは、必ずしも賛成ではないかもしれません。ただ、本当の意味での“プロデューサー”は、作り手として「他人の著作物が少しでも映像に写り込んでいたら著作権侵害になるのでは?」といった類のモヤモヤに常にさらされています。フェアユース規定によって、そのような心配を少しでも減らせるのであれば、作り手としての映画・音楽業界人が反対する理由はあまりないと思います。
―― 導入に伴うメリットをどう見ていますか。
効果として圧倒的なものはないが、プラスにはなるという程度ではないでしょうか。これまでも、日本の著作権法にフェアユースはありませんでしたが、フェアな使い方であれば、何らかの形で侵害が否定されてきました。ですから、基本的には、これまでと変わりない世界が続くということだと思っています。
たしかに、MYUTAのようなサービスを事業の中心に据えるIT系企業は著作権法に足を引っ張られていますが、全体から見るとごく一部にすぎません。パロディ等との兼ね合いで大きく問題になるのは著作者人格権のほうですから、今回、議論されている日本版フェアユース規定が及ぼす影響は、どちらかというと技術的な分野にとどまるのかもしれません。人格権が弱まるようなことがあればフェアユース以上に産業活性化に寄与すると思いますが、権利者がこぞって反対するでしょうから、これは永遠に「悲願」のままかもしれませんね。
―― アメリカではフェアユースによる経済効果は高いのでしょうか。
映画制作現場の例でいうと、アメリカの弁護士たちは、映画に少しでも著名企業の看板が写り込んでいれば、当該企業に電話して訴えないことを承諾するサインをお願いしたり、素人の通行人が写り込んだら同意書をもらいに追いかけるということを相変わらずやっています。「フェアユースで勝てるでしょ?」と彼らに尋ねても、「訴えられたら、何十万ドルも裁判費用がかかるから、勝てるとしても全部許諾をとらないとダメなんだ」という理屈です。
フェアユースは何かあったときのセーフティーネットの役割を果たしますが、それによって産業が栄えるかはまた別の話でしょう。
―― 導入することが必須とまではいえないという位置づけですか。
必須のインフラの一つとして導入すべきです。フェアユースの効果というのはボディーブローのようなもので、「ここから先はダメ」という重しがはずれて、「ここから先でも、フェアだったらOKかもしれない」と変われば、少しずつ新たなアイデアでチャレンジをする人が出てくると思います。
裁判が増えるという懸念もささやかれますが、フェアユースにあたるかどうか、著作権を専門にしている弁護士でも判決が出るまで分からない微妙な案件は少ないと思いますので、著作権関連の裁判がそれほど増えるとは思えないですね。公正性というのは常識的なところで判断されるものです。
内藤 篤 弁護士
ないとう・あつし
85年弁護士登録。90年ニューヨーク州弁護士登録。著作『エンタテインメント契約法[改訂版]』(商事法務、2007)ほか多数。名画座「シネマヴェーラ渋谷」館主でもある。
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