[Focus]日本版フェアユース規定の導入でビジネスは変わるか?(4)

2009年6月15日|上野達弘 立教大学法学部准教授
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20090615-1.jpg考慮要素を明示した受け皿規定の導入が法的安定性を高める


■ 一般条項の必要性
―― なぜ「日本版フェアユース規定」が必要とされているのでしょうか。
 現行の著作権法では、権利の制限規定は厳格に解釈すべしというのが従来の判例・通説なのですが、厳格解釈を貫くと誰もが不都合だと思う結論になってしまうことが多々あります。例えば、自宅でテレビ番組を録画して個人用のビデオ・ライブラリーを作った場合、起草者の逐条解説書によれば、それは私的複製として許される範囲を超えたものとされています。もしこれが違法ならハードディスクレコーダーを個人的に使用する行為も違法になってしまうでしょう。
 もちろん実際に裁判になれば、「雪月花事件」や「市バス車体事件」などで見られたように、裁判官がいろいろな論理で侵害を否定することも考えられます。
 しかし、明文の規定と通説に従えば権利侵害になってしまう以上、萎縮効果は無視できないと思います。また、仮に裁判官が救済してくれるとしても、根拠条文が明らかでない以上、裁判官によってどのような事情が考慮されてどのような結論になるか分かりません。
 そこで、根拠条文となる一般条項を設けるとともに、考慮要素を明示することにより、裁判官がどのような事情をどのように考慮して判断すべきかを明確にすることで、その判断に一定のコントロールをおよぼすべきではないかと私は考えたわけです。
 フェアユース規定のような一般条項を入れると判断基準が不明確になるという批判があるのは承知していますけれども、私の意見ではむしろ逆です。現状において厳格解釈を完全に貫くことができない以上、判断基準はすでに不明確なのです。考慮要素を明示した一般条項を設けることで、むしろ法的安定性が高まるのではないかと考えられます。また裁判官による判断構造が可視化され、その判断の妥当性を客観的に検証できるという効果も見逃せないと思っています。

―― アメリカのフェアユース規定のような考慮要素を条文に入れることをお考えですか。
 それは議論になるでしょうね。例えば、アメリカのフェアユース規定では「著作物の潜在的市場に対する影響」などが考慮されていますが、こうした要素を日本版フェアユース規定においても明示的に掲げるかどうかは賛否両論あると思います。
 現行の著作権法では、20条2項4号に同一性保持権を制限する一般条項がありますけれども、そこでは、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様」といった考慮要素が掲げられており、これも参考になります。
 また、そもそも「公正」という文言を用いるのか、それとも「正当」や「必要」ですとか「やむを得ない」といった文言にするのかという点も問題になります。
 もし一般条項を導入することになれば、具体的な文言について、文化庁の審議会で議論されていくことになると思います。


■ フェアユース規定の適用範囲
―― ビジネス面での影響はどの程度あるとお考えでしょうか。
 もともと私が日本版フェアユースとして念頭においていたのは、個別の制限規定を厳格解釈したために不当な結果になってしまう事態を救済するための規定でした。こうしたいわば防御的な規定であれば、裁判上の結論としては、あってもなくても基本的に変わらないような規定になろうかと思います。それだけでも十分意味があると思っておりますし、さしあたりはそれくらいが穏当なところではないかと思っています。
 ただ、それでは夢がないではないか、というご批判もあるでしょう。むしろ今までできなかった行為が適法とされるような、いわば攻撃的な規定を求める向きも強いようです。そこまで含めるかどうかは、今後コンセンサスが得られるかどうかにかかっています。

―― これまで不可能だった利用が可能になるのはどのような場合でしょうか。
 例えば、アメリカでフェアユースに当たると考えられているものとして、著作権侵害訴訟で問題になった楽曲の比較サイトがあります。これは研究や教育のために大変有用なサイトなのですが、日本でこれをやると、いくら裁判官が頑張っても権利侵害を否定しにくいのではないでしょうか。しかし、もし日本版フェアユース規定ができれば、こうしたものも許される可能性が出てくると思います。また検索エンジンについては、明文の規定が設けられる予定ですが、日本版フェアユース規定で救われる可能性もあるでしょうね。
 しかしさらに進んで、これまで裁判例等において違法とされてきた一定の行為についても、フェアユース規定によって合法化すべきという期待もあるようです。
 例えば、過去の放送番組をネット配信することは現行法上、権利者の許諾が必要ですが、そうしたビジネスが社会的に有用であるという理由で、日本版フェアユース規定により許諾を得る必要がなくなるとか、放送番組を海外で視聴できるようにするサービスも、裁判例によってしばしば違法とされていますが、これも日本版フェアユース規定によって適法になるといった声も耳にします。むしろそのためにこそ、この規定をつくるべきという方もおられます。
 しかし、果たしてそのような広い適用範囲をもったフェアユース規定が妥当なのか疑問が残ります。アメリカでもフェアユース規定ができる前から裁判例においてフェアユース的な判断が積み重ねられてきたわけであって、明文の規定はそれを根拠づけたにすぎません。現行の日本法で裁判例がすでに違法としてきたものが、フェアユース規定ができたことで簡単に適法になるというのは難しいのではないかと思います。
 もし、そのようなことを期待するのであれば、そうしたサービスを適法にする制限規定を設けるとか、間接侵害に関する法改正を模索すべきでしょう。日本版フェアユース規定があれば、打ち出の小槌のようにどんな問題にも対応可能となるということはないと思います。

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