国際法にアジアの視点を

2009年6月02日|中川淳司 東京大学社会科学研究所教授
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20090602-1.jpg─研究者と実務家のコラボレーションを促進する
アジア国際法学会第2回大会が8月に東京で開催─

アジア国際法学会(小和田恆会長)の第2回大会が8月1日、2日に東京で開催される。「多極・多文明世界における国際法:アジアの視座、アジアの課題、アジアの貢献」をテーマに、公開フォーラム、全体セッションおよび国際人権法、国際刑事法、国際環境法、国際経済法等に関する14のパネルが開催される。
国際経済法に関するパネルの一つでモデレーターを務める、中川淳司・東京大学社会科学研究所教授に、企業の法務担当者にとっての大会の見どころをうかがった。


─―アジア国際法学会の目的と特徴について教えていただけますでしょうか。
 2007年4月、アジアにおける国際法の研究・教育・実践の発展、国際法におけるアジアの視点の明確化、アジアにおける国際法の認知と尊重の促進――を目的として発足しました。2年に1回、研究大会を開催することとしており、2009年の東京大会は第2回大会にあたります。
 多くの国の研究者が参加する国際法学会としては、1906年に設立された米国国際法学会や2004年に設立された欧州国際法学会がありますが、アジアをカバーする国際法の学会はこれまで存在しませんでしたので、この学会が果たすべき役割は非常に大きいと思います。
 また、アジア国際法学会は、国際法の研究者に限らず、弁護士や外交官といった実務家に対しても広く門戸を開いていることが大きな特徴です。学会の設立準備段階から、国際経済法、国際人権法、国際環境法といった分野において活躍されている日本の有力な法律事務所の多大なる協力をいただいています。

─―ビジネスに関連するパネルの概要について教えていただけますでしょうか。
 全部で14のパネルが行われますが、そのうちの三つが国際経済法に関するものです。
 1日目午前に行われる「ルール受容者、攪乱者からルール創造者へ:日本、中国、韓国の国際経済法形成への貢献」と題するパネルでは、ペッカネン・ワシントン大学教授らが、WTO(世界貿易機関)における東アジア3か国の主張・行動がどのように変わってきたかをたどります。アンチダンピングをはじめとした貿易救済措置は、国内産業の保護のために濫用されがちですので、WTOのルールはどう守られるべきなのか、輸出が盛んな東アジア3か国の視点から議論が行われるものと思います。アンチダンピングなどで痛い目にあったことのある企業の方にとっては政府に対してどう働きかけるべきか、という観点からも参考になると思います。
 2日目午後の前半には「投資協定仲裁」のパネルがあります。投資受入国と外国投資家との間で紛争が生じた場合、投資受入国の裁判所の判断に従うとすると、どうしても外国投資家が不利になることから、投資協定に基づいた仲裁で解決する例が増えています。これまでに公表されたもので300件ほどあり、事例が積み重なって予測可能性も高まっているといわれています。しかしながら、アジアの企業は、撤退を余儀なくされるようなケースでもないかぎり相手国政府とは穏便に事を済ませたいという意識が強いようで、投資協定仲裁はあまり使われていないのが現状です。日系企業でも過去に1件しか事例がないと聞いています。弁護士費用がそれなりにかかるとはいえ、相手国政府の都合ばかり聞かざるを得ない立場になってしまえば、中長期的な経営の観点やコンプライアンスの観点から大きな問題となり得ます。投資協定仲裁をもっと知り、ビジネス現場でも積極的な活用を検討していただけたらと思います。
 2日目午後のパネル「国際貿易・投資紛争解決の透明性」では、WTO紛争解決手続および投資協定仲裁における透明性の確保について検討します。その背景には、輸入国や投資受入国における環境規制や食品安全規制の適法性が国際貿易紛争・投資協定仲裁で争われるケースが増えつつあることがあります。もし、海外への工場進出後に、突然、その投資受入国の環境基準が厳しいものに変更された場合、投資協定に反するとして仲裁人が基準の変更を認めないとしても、投資受入国内での正統性があるものについては、紛争解決プロセスを一般市民に公開し、意見書提出の機会等も用意する必要があるのではないかという問題意識です。企業として、消費者へのアカウンタビリティを尽くさないと、現地で槍玉にあげられる可能性もあることから留意する必要があると思います。

─―大会への参加方法について教えてください。
 参加登録はアジア国際法学会東京大会のウェブサイトから受け付けています。参加登録の時期によって登録料が異なりますので、お早めに登録されることをお勧めいたします。大会のプログラム等についてもウェブサイトに掲載されていますので、是非ともご覧ください。


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[Business Law Journal 2009年7月号掲載]


中川淳司 東京大学社会科学研究所教授

なかがわ・じゅんじ

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