現代知的財産法における新しい空間、新しいアクター及び制度論的転回

2010年1月25日|小島 立 九州大学大学院法学研究院准教授
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―― デジタル著作権、医薬特許、知的財産法の国際私法的側面などが議論される予定となっております。各項目について、簡単なコメントを頂戴できますでしょうか。

■ デジタル著作権
 デジタル技術の出現は、著作権法における権利保護と自由利用の微妙なバランスに決定的な影響を与えました。デジタル著作権の領域では、技術的保護手段や契約などの併用も相まって、一般的に権利強化の傾向が進んでいるといわれます。しかし、情報の利用者も、もはや受動的な消費者といった存在ではなく、自分たちの権利を主張し始めています。また、Googleに代表されるように、権利者と利用者の間をつなぐ役割を果たす媒介者の力も急速に増しつつありますし、オープンソースやクリエイティブ・コモンズのような新しい動きも見られます。
 制度論的考察は、「『誰が決定をなすべきか』を決定する(deciding who decides)」という問題を探求するものです。このアプローチは、新しい利用者や新しい権利者も含めた関係当事者の利害調整メカニズムや著作権法の権利制限規定のあり方の再検討といった、極めて現代的な課題にも重要な示唆を与えることでしょう。

■ 医薬特許
 TRIPs協定による知的財産権の平準化により、特許保護は実質的にも領域的にも格段に強化されました。しかしながら、問題は国内外で山積しているのが現状です。各国は、国際条約上の義務に適合的でありながらも、自国の経済産業政策をないがしろにすることなく、特許政策の舵取りを行わなければならないという難題に直面しています。国際的に見ますと、経済発展の度合いや、制度が有する限界(例えば、市場メカニズムの整備、立法の能力、司法制度の成熟性など)は、各国で非常にバラツキが大きいのが実情です。
 今回は、世界的にも激しく議論が戦わされている医薬特許を素材に取り上げ、現代の特許制度が抱える問題点の検討を行います。制度論に基づく考察は、グローバルな特許制度の構築にあたって有益な分析ツールとなりうるという点が明らかになるのではないかと期待しております。

■ 知的財産法の国際私法的側面
 国境を越えた知的財産紛争において、国際私法との関係で生じる問題は主に二つあります。すなわち、どこの国で訴訟を行うのかという国際裁判管轄の問題と、どこの国の法を適用して事案を解決するのかという準拠法の問題です。従来の知的財産法学においては、いわゆる属地主義の考え方もあり、これらの問題は余り真剣に検討されてきませんでした。しかし、インターネットの出現やグローバル化の急速な進展は、そのような伝統的な思考に私たちが安住することを許してはくれません。
 制度論的考察を推し進めるならば、国際知的財産紛争において増大しつつある私人の役割に注目し、それが伝統的な国際私法の考え方にいかなる影響を与えうるのかということが検討されなければならないでしょう。制度論に基づく考察は、国際裁判管轄の議論や準拠法における「再密接関連地」といった議論にも新たな光を当てることができるかもしれません。

―― 参加される方、参加を考えている方に一言いただけますでしょうか。
 現在の知的財産法は、国内外で大きな変革の時期を迎えていると認識しております。国内に目を向けますと、著作権法では、権利制限規定のあり方について、いわゆる「日本版フェアユース」の導入の是非が議論されていますし、特許法の大改正に向けた議論も進んでいると聞いております。国際私法との関係でも、アメリカやヨーロッパ、日本において、近い将来議論が起こるであろう国際裁判管轄や準拠法等に関する条約提案や立法提案に向けた作業が展開されています。
 制度改正をなすにあたっては、知的財産法に関係するすべての利害関係者の利益が適切に考慮され、政策形成過程や法形成過程において反映されねばなりません。制度論は、こういった検討を行うにあたり、従来の議論では見落とされていた貴重な視座を私たちに提供してくれます。
 今回の国際シンポジウムを通して、今後のあるべき知的財産法の姿について、国内外の参加者と一緒に考える機会を持ち、未来に向けた展望を切り開くことができればと期待しています。皆様のご参加を心からお待ち申し上げております。

小島 立 九州大学大学院法学研究院准教授

こじま・りゅう
1976年福岡県生まれ。2000年東京大学法学部卒業。2003年ハーヴァード・ロースクール法学修士課程(LL.M.; Master of Laws)修了。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、2005年九州大学大学院法学研究院助教授、2007年から現職。現在、文化審議会著作権分科会国際小委員会国際裁判管轄・準拠法ワーキングチーム員、日本弁理士会中央知的財産研究所研究員等を務める。

著作:「デジタル環境における情報取引についての基本的視座」財団法人知的財産研究所編『デジタル・コンテンツ法のパラダイム』(雄松堂出版、2008年)137頁、Prior Informed Consent: An Intellectual Property Law Perspective, in Intangible Cultural Heritage and Intellectual Property 309 (Toshiyuki Kono ed., Intersentia 2009)など。

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