現代知的財産法における新しい空間、新しいアクター及び制度論的転回

2010年1月25日|小島 立 九州大学大学院法学研究院准教授
インタビュー トラックバック (0)


20100125-1.jpg九州大学大学院法学府国際プログラム主催(共催:北海道大学大学院法学研究科グローバルCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」)の国際シンポジウムが、2月13日、14日に、福岡市の九州大学国際ホールで開催される。「現代知的財産法における新しい空間、新しいアクター及び制度論的転回」を統一テーマに、基調講演およびデジタル著作権、医薬特許、知的財産法の国際私法的側面に関する三つのセッションが展開される。

今回、シンポジウムで取り上げられる項目の概要について、主催校で知的財産法の教育研究に携わっている小島立氏(九州大学大学院法学研究院准教授)に話をうかがった。

シンポジウムの概要については、以下のサイトをご参照ください。
http://www.law.kyushu-u.ac.jp/programsinenglish/conference2010



―― この国際シンポジウムは、九州大学大学院法学府国際プログラムの主催ということですが、その特色について教えていただけますでしょうか。
 九州大学大学院法学府(本学では、教育組織としての大学院を「学府」と呼びます)は、1994年から授業・論文執筆のすべてを英語で行う法学修士課程(LL.M.)を日本で初めてスタートさせ、1999年からは同様の法学博士課程(LL.D.)を開設いたしました。
 国際プログラムでは常に教育課程の改良を重ねてまいりましたが、より抜本的に改革を行うべく、2006年度の日本学術振興会「魅力ある大学院教育」イニシアティブに応募し、採択されました。その改革の大きな柱が、最先端の研究と教育を有機的に結びつけるべく、LL.D.学生が国際シンポジウム(以下、「LL.D.シンポジウム」)を企画運営するというものです。
 研究者には、優れた論文を執筆するにとどまらず、国際的な研究水準を把握し、その場で自己を的確に表現する能力が求められます。LL.D.シンポジウムでは、自分自身の研究に役立つよう、LL.D.学生がシンポジウムのテーマ設定と講演者の選定に積極的に関わり、さらにLL.D.学生自身も報告を行うことになっています。成果はアメリカのローレビューやヨーロッパの出版社からの単行本の形で公表してきました。
 これまで、コーポレート・ガバナンス、開発法学といったテーマでLL.D.シンポジウムを開催してまいりました。第5回目に当たる本年は、知的財産法をテーマに博士論文を執筆しているLL.D.学生が複数在籍していることから、知的財産法を統一テーマに設定いたしました。また、本学の国際プログラムでLL.D.を取得後、北海道大学大学院法学研究科の21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラムで活動してきた卒業生もおりますので、今回は北海道大学との共催という形をとらせていただいています。
 なお、本シンポジウムは、国際プログラムの企画として行われますので、報告や質疑応答はすべて英語で行われ、日本語通訳はつきません。その点はあらかじめご了承いただければ幸いです。

―― 今回のシンポジウムは「現代知的財産法における新しい空間、新しいアクター及び制度論的転回」というテーマですが、具体的にはどのような問題意識をお持ちでしょうか。
 グローバルな市場、デジタル環境および新しい技術の出現は、「新しい空間(New Spaces)」を生み出し、知的財産法の議論に大きなインパクトを与えるに至っています。加えて、情報財の権利者、利用者、媒介者、発展途上国、非政府組織など、さまざまな「新しいアクター(New Actors)」の声は、知的財産法の政策形成過程や法形成過程において無視できない存在となりつつあります。これらの状況変化は、知的財産法の関係当事者間における利害調整のあり方に、必然的に大きな影響を与えるはずです。
 今回のシンポジウムでは、デジタル著作権、医薬特許、知的財産法の国際私法的側面という三つのテーマを素材に、現代知的財産法における「制度論的転回(Institutional Turn)」を検討します。「制度論(Institutionalism)」に基づく分析手法は、政策形成過程や法形成過程において生じる「不確実性」の原因となる様々な「変数」、例えば、取引費用や関係当事者の限定的な資源、各制度の有する能力などをつきとめることに役立ちます。
 不確実性という外的な費用を減らすために、制度論は、ある決定を行うにあたって、どの制度(例えば、立法府、行政府、司法府、市場)がいかなる資源や能力を有しているのか(言い換えれば、各制度が有する長所や短所は何か)、そしてその分析に基づき、当該問題の解決にあたり、どこに決定を行わせることが適切なのかということを考察します。
 私たち法律家は、何か問題が起きると新しい立法によって解決を図ればよいと考えがちですが、法は問題解決ツールの一つにすぎません。実際には、市場や技術、社会的規範といった各制度のポートフォリオの中で、個々の制度の強みや弱みを補う形で、それらを組み合わせた問題解決がなされているはずです。制度間相互の役割分担や相互補完などのダイナミズムについて考えることは、単に理論的な問題にとどまるものではなく、現実社会での問題解決にも大変有用であると私は考えております。
 また、制度論は、最も適切な規範形成のあり方(例えば、立法形式として、細かく要件が特定された個別規定(「ルール」)と不確定概念を用いた一般条項(「スタンダード」)のいずれを志向すべきなのかといった議論)や、ある制度における解釈アプローチ(例えば、ある制度は他の制度の決定にどの程度の謙譲を払うべきなのかといった点)にも重要な示唆を与えます。これは実際の訴訟の局面において、当事者がいかなる主張を組み立てるべきなのかという際にも、重要な視点を提供するだろうと思われます。
 今回のシンポジウムでは、制度論を学問的方法論の中核に据え、三つのテーマを横断的に分析し、今後の知的財産法のあるべき方向性を模索したいと考えています。シンポジウムのコンセプトペーパーを作るにあたり、LL.D.学生と私たち担当教員は、ただ単純に三つのテーマを並べるだけでは、教育研究の観点からの効果に乏しいと判断しました。三つのテーマという「縦櫛」を、制度論という方法論的な「横櫛」で刺すことにより、初めて多角的な視座に基づく考察が展開でき、新たな知見が得られるのではないかと考えたわけです。また、国際プログラムには、知的財産法以外の分野を研究している学生も多く在籍しています。制度論という方法論をシンポジウムで採用することにより、学生がその方法論に習熟し、知的財産法以外の分野でも、自己の研究に何らかの貴重な示唆を得られるのではないかという効果も狙っています。
 今回の講演者は、こういった私たちの考えを理解し、招へいを快諾してくださいました。世界の第一線級の講演者が集うことから、ハイレベルの議論が展開されるのではないかと、今から大いに期待しております。

>>続きを読む

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL: http://businesslaw.jp/cgi-bin/mt2/mt-tb.cgi/115