[速報]説明義務違反によりメリルリンチ日本証券に6.9億円の賠償命令(東京地判平21・3・31)

2009年4月22日|升永英俊 弁護士
解説 トラックバック (0)

[事案の概要]
原告X1:資金の投資運用等を目的として平成17年に設立された会社。同社は、平成18年に金利スワップ取引契約上の地位を関係会社(メーカー)から承継した。
原告X2:バスの運行等を目的とする会社。
 原告X1の被承継会社は、第1取引の実行日(平成16年6月15日)以前において、KI/KO取引、為替予約取引、通貨スワップ取引、通貨オプション取引等のデリバティブ取引を行い、これらを含む投資活動により平成13~16年度にかけて、年間14億円以上、X2は年間平均8億円以上の利益を上げていた。原告の過去の投資活動の中に、金利スワップ取引こそ含まれていなかったものの、原告がUBS契約との間で行った米ドル短期金利連動型米ドル・円通貨スワップ取引は、6ヶ月物米ドルLIBORが原告らの支払金額に大きな影響を与えるものであった。
被告Y:世界でも有数の投資銀行の日本法人たる証券会社。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第1取引(金利スワップ取引):
成約日:平成16年6月15日
実行日:平成16年6月18日
想定元本:原告X1については、5000万米ドル、原告X2については、2500万米ドル
取引期間:平成16年6月18日~平成26年6月18日
原告らが被告Yから受け取る金利:当初の1年度が10.6%/年、残り9年間が10年物ドル・ドル・スワップ・レートと2年物ドル・ドル・スワップ・レートの差の4倍。
原告らの被告Yへ支払う金利:3ヶ月物 米ドルLIBOR
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第2取引(金利スワップ取引):
成約日:平成16年11月28日
想定元本:原告X1については、5000万米ドル、原告X2については、2500万米ドル
取引期間:平成16年11月30日~平成26年12月18日
原告らが被告Yから受け取る金利:3ヶ月物 米ドルLIBOR
原告らが被告Yへ支払う金利:平成17年9月まで2%/年、平成18年9月まで3.0%/年、平19年9月まで4.00%/年、平成20年9月まで4.80%/年、残り5年3ヶ月間5.00%/年。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 原告X1、X2(以下「原告ら」という)は、主位的請求として、被告Yの営業担当者・Tの虚偽説明により原告らは騙されて、被告Yとの間で第1取引及び第2取引の各契約を締結したので、両契約とも錯誤無効であると主張し、両契約上の債務不存在の確認と約20億円の支払を求め、予備的請求として、「被告Yの営業担当者・Tが虚偽の説明をしたために、原告らは、騙されて、第1取引契約、第2取引契約を締結したところ、原告らは、損害を蒙ったので、被告Yは、原告らに損害金を支払え」との請求をした。
 これに対し、被告Yは、「被告Yの営業担当者・Tは、虚偽の説明をしていない」と反論した。

[判決の要旨]
 裁判所は、主位的請求については、支払義務の不存在確認請求につき、訴えの利益を欠くとして、排斥し、約20億円の支払義務についても、原告らに要素の錯誤は無かったとして、これを斥けた。
 裁判所は、予備的請求については、顧客が被告Yとの間で取引を締結するための適合性を満たしているか否かを検討するために社内に設けられている、特別取引検討委員会(Special Transaction Review Committee)が、平成16年6月4日に、本件第1取引による時価評価損が、想定元本(75億円)の-46%に達し得ることを示す本件分析表を顧客(原告ら)に示すことを条件として、顧客との間で第1取引を締結することを承認したにもかかわらず、被告Yの営業担当者Tは、一方で、同日午後11時過ぎに、第1取引につき、時価評価損最大-8%強であることを示す本件シミュレーション表と「同表は、第1取引のリスクの8割方を示すものであり、残り2割のリスクは、同表以外の要因によって生じる旨の説明文」を原告らにメールで送付し、他方で、最大-46%の時価評価損を記す本件分析表を送付せず、爾後も本件分析表を原告らに送付しなかったと認定し、そのため原告らは、最大時価評価損失-12%と誤解して、本件第1取引契約を締結したと認定した。
 裁判所は、第2取引は、第1取引における損失をヘッジする目的でなされていたという経緯等に鑑みて、原告らが第2取引によって得た利益も考慮したうえで、「被告Yの説明義務違反により、被告らは、第1取引、第2取引あわせて、上記のとおり合計で約20億円の損害を蒙った」と認定し、さらに、過失相殺を理由として20億円の損害の2/3の減額を認め、被告Yに6.9億円の損害賠償の支払を命じた。

[コメント]
 被告Yの営業担当者Tの原告らに対する被告Y(証券会社)のための業務の執行に際して行われた詐欺行為は、故意の不法行為である。営業担当者Tは、被告Yの外務員であるとすれば、金融商品取引法64条3により、営業担当者Tは、被告Yに代わって、金商法所定の行為に関し、一切の裁判外の行為を行う権限を有するものとみなされる。そうである以上、証券会社の外務員の金商法所定の行為の効果は、証券会社に帰属するものと解される。証券会社の外務員の金商法所定の行為は、外務員の金商法所定の証券会社の合法的な行為のみに限らず、金商法所定の業務上の行為を執行する過程で行われ得る外務員の詐欺、横領等の違法な行為を含むと解される。そうであるとすると、外務員が金商法64条1項各号に掲げる証券会社のための業務上の行為の執行の過程で詐欺を働いた場合、その詐欺行為の法的効果も本人(証券会社)に帰属する、と解されよう。
 契約の当事者は、契約を締結するに際しても、契約の履行に際しても、ともに、契約上の債務として、これらを誠実に履行する責任を負っている。契約に際して、契約の一方当事者が他方当事者に対して、詐欺を働いて、他方当事者を騙して契約を締結し、契約上の利益を得た場合は、当該詐欺当事者は、契約締結に至る過程における誠実義務に違反しているので、契約上の債務不履行の責任を負う、と解される。詐欺当事者は、民法416条に基づき、その債務不履行行為(詐欺行為)と相当因果関係に立つ全損害の賠償責任を負う。
 被告の外務員の詐欺行為の結果が、本人たる被告(証券会社)に帰属するとなると、被告の詐欺行為という被告の故意の不法行為の結果により生じた損害につき、詐欺行為の主体である被告(証券会社)とその被害者との間で、過失相殺をすることが妥当であるか、ということになる。
 ①東京高裁平成14年1月30日判決(判時1797号27頁)、②東京高裁平成14年12月26日判決(判時1814号94頁)、③札幌地裁平成15年5月9日判決(金判1174号33頁)、④札幌地裁平成17年2月24日判決(最高裁ウェブサイト)(二審・札幌高裁平成19年9月14日)、⑤神戸地裁平成18年5月12日判決(判タ1246号246頁)の各裁判例は、いずれも被害者からの詐欺行為を行った故意の不法行為者に対する請求につき、被害者の過失相殺を考慮せず、故意の不法行為から生じた損害の全てを故意の不法行為者に負担させている。
 さらに、東京地裁昭和38年5月13日判決(判時337号39頁)は、被告(証券会社)の外務員の業務執行に際して行った横領につき、被告(証券会社)の業務を執行するためになされたものである、として、被告(証券会社)に外務員の横領により生じた損害の全てを賠償するよう命じ、被告(証券会社)からの過失相殺の主張を斥けた。
 本件では、被害者である原告X1、X2に2/3の過失有りとして、2/3の相殺を認めている。本件は、控訴審に係属中である。
(判決文はPDF)

>>続きをPDFで読む


升永英俊 弁護士

ますなが・ひでとし

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL: http://businesslaw.jp/cgi-bin/mt2/mt-tb.cgi/56