ウィーン売買条約発効後の実務対応(2)

2009年7月14日|吉川英一郎 大阪学院大学法科大学院教授/大貫雅晴 社団法人日本商事仲裁協会理事/小林和弘 弁護士・ニューヨーク州弁護士/竹下 香 ダイハツ工業法務室室長
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4.紛争解決基準としてのCISG
吉川  準拠法条項というのは、紛争解決条項と切り離せませんので、裁判管轄を指定するか、あるいは国際商事仲裁を指定するかということとも絡んでくるわけですけれども、大貫先生の立場から、CISGと、契約の仲裁条項との組み合わせについてどうお考えですか。

大貫  国際商事仲裁におきましては、準拠法の問題が発生します。日本の仲裁法の36条にも規定があるわけですけれども、第一に仲裁判断にあたって準拠すべき法は当事者自治ということで、当事者合意がまず優先されます。契約書に準拠法規定があると、基本的にはその規定が採用されます。この当事者合意の準拠法については、「法」という規定のされ方で、それは国家法じゃなく広い概念の法ということですね。私は、この法は、未発効のCISGとか、ユニドロワ原則なども含まれると理解しております。当事者間の合意がない場合については、仲裁廷が、基本的には最密接関係にある国の法令を採用するという規定が置かれているわけです。そこで、国際商事仲裁ということになれば、どのような文化を背景とした人たちが仲裁人になるかも考慮しておく必要があります。仲裁人は国籍を問いませんから。そうするとやはりそこに、仲裁特有の、仲裁人特有のグローバルスタンダードがあります。仲裁人の間では、CISGとか、ユニドロワ原則は非常に大事で、そこに判断根拠を求めるということは、国際商事仲裁における仲裁判断においては、予想できることです。

吉川  ということは、仲裁の世界ではもう既にCISGは常識化していると。仲裁人は、それを常識として理解しているということですか。

大貫  そうですね。

小林  今の点に関連して、紛争解決条項において、裁判にするか、仲裁にするかが一つ問題になってくると思います。CISGの場合、7条1項に、「この条約の解釈に当たっては、その国際的な性質並びにその適用における統一及び国際取引における信義の遵守を促進する必要性を考慮する」という規定はありますけれど、実際に各国の裁判所において、どの程度これが考慮されるのかを考えていくと、同じCISGであっても各国でこの判例の集積が違ってくるのだろうと思います。したがって、そういう意味では、準拠法がCISGであることだけではなくて、どの国の法かという点も大事です。他方、仲裁については、先例拘束性がないわけで、いくらCISGに関する仲裁判断が集積されても、次の仲裁で必ずしも同じ仲裁判断がされる保証はまったくないわけです。そういう点も含めると、やはりCISGはその解釈について若干不安であるというのが、私の考えなのです。ただ、仲裁は、仲裁機関、仲裁規則、あるいは仲裁人をある程度選択できますので、そこを慎重にすればあまり大けがはしないのかなという気もしています。

大貫  いわゆる先例拘束性が仲裁にはないというのは、準拠法がCISGでも日本法でも、あるいはニューヨーク州法であっても同様のことです。ただ、CLOUT 注6 といいまして、CISGに関係する裁判所および仲裁判断の判例が公表されております。判断例がどんどん集積されていくうちに、先例拘束性はないのですけれども、その法的調和、判断の調和化というところは期待できるんじゃないかと思っています。

吉川  ということは、各国は、各国の裁判所の判断がまちまちにならないように、CISGの解釈を統一する努力をするという方向で期待されているということですね。

大貫  そうですね。それと、私は、国際契約法ルールを、国際条約やモデル法などを使って、すべて完全に統一することは、まず不可能だと考えております。ですから、その解釈においては各国それぞれ微妙に異なってくるわけですが、それでも、国際会議とか、CLOUTなどで情報交換をすることによって、ある程度の調和が期待できるのではないかということです。

吉川  CISGに関しては、アドバイザリーカウンシル(Advisory Council) 注7 があって、その見解を公表することで、解釈統一を促進するという仕組みもありますよね。

竹下  各国が統一に向けて努力していきましょうということですよね。国内のように最高裁が最終判断をして、矛盾している下級審判例を整理してくれるわけではなくて、国際社会では、あくまでもそれぞれの国でどう判断するのかという話になるんですよね。

大貫  そうです。これはあらゆる分野においても同様じゃないかと思っています。やはり、完全統一というのは難しいことですよ。だとしても、解決基準として不適当ということには決してならないのではないでしょうか。

(続く)



注6
CLOUT: Case Law on UNCITRAL Texts. 国連国際商取引法委員会が事例を公表している。
http://www.uncitral.org/uncitral/en/case_law.html 参照。

注7
CISG-AC:世界的な研究者メンバーからなる私的な委員会で、CISGの解釈をめぐる意見を発信する。03年8月の第1号以降7件の意見公表がある(09年2月現在)。http://www.CISG-ac.org 参照。

[Business Law Journal 2009年5月号掲載]

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