ウィーン売買条約発効後の実務対応(2)

2009年7月14日|吉川英一郎 大阪学院大学法科大学院教授/大貫雅晴 社団法人日本商事仲裁協会理事/小林和弘 弁護士・ニューヨーク州弁護士/竹下 香 ダイハツ工業法務室室長
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20090714-1.jpg3.7条 注2 の精神とその解釈
吉川  総則の規定で、抽象的・包括的なために実務関係者が見落としそうなものとして7条があります。これは、CISGの機能に関わる重要な条項のように思えます。7条1項では、条約解釈にあたっては、条約の国際性や、適用における統一および信義遵守促進の必要性を考慮しなさいということが規定され、さらに7条2項には、条約において明示されていないものについて「条約の基礎を成す一般原則」に従い、このような原則がない場合には「国際私法の準則により適用される法」に従って解決しましょうというくだりがあるわけです。これは、日本法の世界に生きていた我々に対して、これからは世界基準、グローバルスタンダードが入ってくるから、それを理解して国際取引に応じなければならないと迫っているように思えるわけですが、この点についてどう考えられますか。

大貫  まず、この条約の基礎にある一般原則に従い解釈されるべきというところで、国際的一般原則も考慮する必要があります。非常にやっかいな問題なんですけれども、グローバルに見た場合に、ユニドロワ国際商事契約原則 注3 というものが、一つの具体例として挙げられます。ICC(国際商業会議所)の仲裁によく見られます 注4。例えばCISG78条の利息の規定には具体的な利率の規定がありません。利率の決定は、国家法の前に、「条約の基礎にある一般原則」に求めることになりますが、その場合、法の一般原則として、ユニドロワ原則の7.4.9条2項に求めることがあります。そこでは「支払地の銀行による最優遇短期貸出の平均的レート」を基準として挙げています。国家法としての日本の商法の利率などは、果たして実務において現実的かどうかちょっと疑問ですから、そういう意味では、CISGに対する補完的な役割として今後ユニドロワ原則が重要性を増してくるのではないかと考えています。

吉川  ということは、CISGに規定がない場合には、各国の国内実体法をすぐ参照するのではなくて、7条2項の示している条約の基礎をなす一般原則を先に探求して、その結果ユニドロワ原則などを一旦参照したうえで、各国の国内法を見にいくというステップになるわけですね。

大貫  そうですね、7条2項によりますと、すぐに国家法の適用に行くのではないわけですよ。

竹下  そこはやはり、企業からすると大きな落とし穴というか、整理しないといけないことです。どの法が適用されるか論理的にフローチャートをたどるべきなんですね。ライセンス供与など売買に関しないことは、当事者の定めた準拠法条項に従うのだと思うのですけれども、売買に関することだと、最初がCISGで、CISGにちゃんと書いてないことについては、日本法と思いきや実は違うところに行っちゃうということも理解しないといけないわけですね。で、結局、ユニドロワも勉強しましょうということかと。

小林  そうですね。そのあたりがやはり、どうなるのかが不明確だからリスクがあるのかなというところですね。

竹下  そう、だから、この条約の規定の範囲内なのか、範囲外なのか、どこまで区別できるのかなという問題があって、境界事例になったとき困るという気はしますね。

大貫  さらに、日本において、ユニドロワ原則を知っている人はそんなにたくさん居ませんが、欧米では、ユニドロワ原則は結構普及していまして、日本と海外との事情の違いというのがあるんじゃないかと思います。

小林  先ほどの利率の話に戻れば、CISGは基本的に任意規定であるし、当事者間で利率を契約中にはっきりと定めておくことが大事なのかなという気がします。サブプライムローン問題の関係でそれが適切なのかどうか疑問もありますけれども、例えば、ライボー 注5 を基準として、ライボープラス何%とか。



注2
第7条 (1) この条約の解釈に当たっては、その国際的な性質並びにその適用における統一及び国際取引における信義の遵守を促進する必要性を考慮する。
(2) この条約が規律する事項に関する問題であって、この条約において明示的に解決されていないものについては、この条約の基礎を成す一般原則に従い、又はこのような原則がない場合には国際私法の準則により適用される法に従って解決する。

注3
UNIDROIT Principles of International Commercial Contracts:私法統一国際協会(UNIDROIT)が国際商事契約のための一般的準則を定めるために作成したもので、国家法でも条約でもなく、またモデル法でもなく、「これは各国で行われている契約法および債権法に共通する原則を要約したともいうべきものであり、当事者の援用によりあるいは裁判官、仲裁人が法規の欠缺を補うために適用されることを目的」とするもの(高桑昭『国際商取引法(第2版)』(有斐閣、2006年)13頁)であって、契約法ルールの国際的リステイトメントと理解される。

注4
ICC Bulletin Vol10/No.2-Fall 1999,p33-101“Extracts from ICC Awards referring to the Unidroit Principles.

注5
LIBOR. London Interbank Offered Rate. ロンドン銀行間出し手金利。

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