ウィーン売買条約発効後の実務対応(5)

2009年7月21日|吉川英一郎 大阪学院大学法科大学院教授/大貫雅晴 社団法人日本商事仲裁協会理事/小林和弘 弁護士・ニューヨーク州弁護士/竹下 香 ダイハツ工業法務室室長
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20090721-1.jpg10.完全合意条項を設けての書面性の要求
吉川  次は、契約の成立に関連した11条の方式の話をしましょうか。「売買契約は、書面によって締結し、又は証明することを要しないものとし、方式について他のいかなる要件にも服さない。売買契約は、あらゆる方法によって証明することができる」という規定が入っているのですが、これは書面性を要求する英米法の考え方とは逆で、むしろ日本法に近い考え方です。そういう意味では我々でも十分理解できる規定ではないかと思うのですが、これについてはどのようにお考えですか。

小林  吉川先生のおっしゃるとおりなのですが、ただ実務的にはいったん紛争になった場合に大変であることは否めないですよね。ああ言った、こう言ったと、別の口頭の合意があることを主張、立証していくわけですから。それを国際的な紛争においてするというのはかなり大変ですので、企業の方々にとっては、やはり書面だけで話が進むようにした方が楽だと思います。特に、担当者が変わってしまうときには、以前にこんな話があったとか、なかったとかいうことは、かなり困ったことになるのではないかと思います。この点についても、基本的には当事者間の合意で配慮できるとは思います。

吉川  そうですよね。例えば、29条2項で、「合意による変更又は終了を書面によって行うことを必要とする旨の条項を定めた書面による契約は、その他の方法による合意によって変更し、又は終了させることができない」という規定がありますので、CISG自体も書面を要求するという慣行は理解しているということですね。

大貫  ただし、29条2項後段に、「当事者の一方は、相手方が自己の行動を信頼した限度において、その条項を主張することはできない」と規定しています。英文契約書でよく見られる、いわゆる完全合意、エンタイア・アグリーメント条項の中には通常、契約締結後の変更は書面で行うとの規定がありますが、これがどう取り扱われるかという問題が出てくるわけですよね。

竹下  現実問題としてそのような条項があるとしても、実務上は本当に、年が経つにつれていろいろなことが変わっていっているのです。そうすると、相手方ももうそれを信用してしまっており、いろいろな取引条件も書面によらずに既に変わってきたじゃないかと言われてしまったときに、どうなるかという話はありそうです。

大貫  現場に対しては、口頭は慎重にということは言っておく必要があると思います。ですから、そういう意味ではやはり、必ず書面で確認しておくということの大切さを啓発しておく必要があるのではないでしょうか。

竹下  実際にも、契約書だけ出して裁判や仲裁をしたというのは、私も記憶がありません。そういう意味では、契約書以外の書面も非常に重要だということは、実務の中では理解されているとは思いますけれども。

11.74条と矛盾するペナルティ条項を挿入することの意味
吉川  別のポイントとして、損害賠償の範囲、「当事者の一方による契約違反についての損害賠償の額は、当該契約違反により相手方が被った損失に等しい額とする」という74条の規定があるのですが、どうでしょう。

小林  この条項についても、任意規定なのか強行規定なのか気になるところです。一般的に、英米法では違約罰と呼ばれているものは認められていません。他方、日本法においては、公序良俗に反していない限り認められている現状があります。その中で、その違約罰に相当するような条項を規定した場合に、CISGが適用されるときには、これは有効なのかどうなのかが問題だと思います。

大貫  ユニドロワ原則では、7.4.13条の規定があります。不履行に対する支払いの合意、agreed payment for non-performanceの規定ですが、指定された損害賠償額によって、この規定がどういう影響を与えるかというのも面白いところじゃないかと思います。

竹下  現実の損害に関わりなくその金額を請求する権利を有する、だから決めたらそれでいきなさいということですよね。

大貫  そういう意味では7条の問題として2項で不明な場合に、それではどこに準則を持っていくのかというところで、一般原則というときに、このユニドロワの規定がどれだけ影響を与えてくるかということですね。

小林  ユニドロワの規定は、ペナルティを排除する英米法の状況よりは、わりと緩やかかなという印象を持ちます。

吉川  結局、CISGの任意規定性の6条で、当事者が自由に内容を決められるというのがCISGの基本的な考え方ですから、そういう意味では排除することは可能かと思いますが。CISGの規定を排除した結果、設けられた規定がその次に適用される準則によって、公序に反するということで排除される可能性もあるわけです。

小林  そうすると、その公序が何なのかというのが、非常に重要になってきますし、逆に何か分からないところがリスクであるという気もします。

大貫  しかし、国際取引の場合は、公序というのは国によって相当隔たりがあるので、これはもう売買に限らずあらゆる面でそう言えるのではないでしょうか。

小林  そうですね。最終的に相手国における、その承認、執行まで考えると、相手国の公序がどの程度広いか狭いかによって違ってきますので。

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