利益供与・助長取引 [3人の専門家が答える 反社対応の実務]


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[回答者]
大井哲也 弁護士(TMI総合法律事務所)
黒川浩一(元 警察庁刑事局組織犯罪対策部企画分析課)
芳賀恒人(株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究室)

保証契約

Q1製品を販売した後に、販売先が反社会的勢力であったことが判明した場合、メーカー保証に基づいたアフターサービスの提供は助長取引に当たりますか。修理を行わなかったことで安全性に問題が生じ、第三者に損害を与えるリスクもあります。


大井
 暴力団関係企業に対して、その事業に用いる機械設備を納入した事例を想定すると、その機械設備のメーカー保証に基づいたアフターサービスの提供も、利益供与に該当する可能性がある。もっとも、そのアフターサービスの提供をストップすることで安全性に問題が発生し、第三者に危害が及ぶ可能性がある場合にまで、事業者に対して利益供与の禁止を徹底させるべきか否かは、非常に悩ましい問題であり検討の余地がある。この事例の場合には、都条例24条3項ただし書の適用により利益供与に当たらないとする結論を導くことができると考える。
黒川 いかなる取引が暴力団の活動助長といえるかは結局はケース・バイ・ケースであり質問内容だけでは判断できないが、修理等をすることが暴力団を助長するといえるのは、この製品が暴力団事務所の備品であるといった場合だろうか。第三者損害の責任は、修理しないことではなく、修理しない製品を使い続けることにあるとも考えられるが、正当といえるかどうか微妙な事例まで警察が勧告することは考えづらい。

正当事由

Q2当社が管理する区分所有建物において、区分所有者に暴力団関係者がいた場合、適正な物件の管理、運営のために当該暴力団関係者から物件を取得することは正当事由ありと考えてよいでしょうか。


黒川
 単なる住居か暴力団事務所かにもよるが、暴力団関係者をマンション等から排除することが、他の居住者の平穏な生活につながるといえるならば、適正な額での買取りには正当な理由があるといえ、条例違反に問われることはないと考えられる。

正当事由(法令上の義務)

Q3電気通信事業法では正当な理由がない限り契約を拒否できないと規定されているが、暴力団員と携帯電話やプロバイダの契約を締結することは問題でしょうか。また、これらの契約にも暴排条項を導入すべきでしょうか。


黒川
 個人的には、電気・ガス・水道と違い、ユニバーサルサービスである固定電話はともかく、携帯電話やプロバイダ契約は事業者側が客を選ぶ自由があると考えている。そうであるなら、特に携帯電話は暴力団の活動に使われるから、暴排条項を導入して契約を拒否していただきたい。業界全体の取組みをお願いしたい。

反市場勢力からの株式買取り

Q4相対取引で株式を買い取る場合、相手が反社会的勢力ではない、いわゆる「市場かく乱者」であったら、それは利益供与に当たるのでしょうか。


大井
 都条例が利益供与の禁止の相手方として射程とする「規制対象者」(2条5号)に該当するか否かの問題である。いわゆる反市場勢力(不公正ファイナンス、株式市場における不正な取引を行う者など)と「規制対象者」は異なる概念であり、必ずしも一致しない。すなわち、ある反市場勢力が、暴力団員(同条同号イ)や暴力団が経営支配する企業の役員等で、その暴力団の威力を示すことを常習とする者(同条同号ト)であれば、「規制対象者」に該当する場合があり、利益供与の対象となり得るが、そうでない場合には、利益供与の対象とならない。

不動産売買・賃貸借

Q5暴力団員からの土地購入・貸借はどのように解釈されますか。工場用に買収しようとした土地の一部が、たまたま暴力団員の所有だったケースがありました。ほんの一部に反社会的勢力が関わるからといって、購入・貸借を断念するのは事業上の不利益が大きいため、正当事由ありと考えられる余地はないでしょうか。


黒川
 ケース・バイ・ケースだが、厳密にいえば、計画を変更して他の土地に工場を建設することが可能であれば、それでもこの土地を買収するのは条例に抵触する。しかし、周辺の買収が進んでおり計画変更に莫大な費用がかかるなどの事情があれば、たしかに、正当事由ありとして条例違反にはならないと思われる。ただし、その場合も、予見可能な事実の調査を怠ったことで暴力団に利益供与をしたことへの社会的な非難というリスクがあることは認識すべきである。

条例が求める反社チェックの程度

Q6東京都条例24条3項では、「情を知らずに締結した契約の履行」は違反ではないとされていますが、締結前に十分なチェックもせず漫然と締結したような場合は救われないのでしょうか。どこまでチェックすれば注意義務を果たしたと合理的にいえるのでしょうか。


黒川
 もちろんおすすめできないが、漫然とした契約だからといっても、暴力団の活動を助長するという事情を知らなかったことは事実だから、条例を厳密に解釈すれば、違反は成立しない。どこまで確認すべきかは、条例違反かどうか、合理的かどうかではなく、社会的な常識、コンプライアンスの観点で決まってくるものだと思う。

条例が求める反社チェックの程度(下請企業の場合)

Q7元請けから工事を下請けする場合、業界慣習上、事前に工事場所や施主等が明らかにされないことも多いため、工事対象が暴力団員の自宅や暴力団事務所であることが当日初めて判明することが想定されます。施主とは直接の契約関係になく、また元請けとの力関係上、契約前に施主の属性を確認することは難しいのですが、もし工事を実施した場合、「情を知って」に当たり利益供与の禁止規定の違反となりますか。


黒川
 下請業者が役務提供(利益供与)をしているのは、あくまで元請業者に対してであり、万が一工事現場が暴力団事務所であると判明しても、直ちに条例違反にはならない。しかし、そのような事態を避けたいならば、「力関係」は理解できるが、暴力団とつながっている元請けとの関係を(徐々にでも)断ち切る努力をすべきではないだろうか。元請けが暴力団との関係が疑われる企業だと判明してもなお下請契約を締結して役務提供するならば、条例違反の可能性は排除できないといえる。

条例の適用

Q8都条例と他道府県の条例とでは大きな差はありますか。仮にあったとして、関係当事者や関係物件が複数の都道府県に存在し、暴排条項に関する主張で隔たりが出た場合には、どの条例が適用されるのでしょうか。各地の事業所、支店などではその設置場所の条例に従うのか、あるいは本社所在地が基準となるのでしょうか。


大井
 事業者の事業を行う場所が基準となり、各地の事業者、支店の条例も適用され得る。
黒川 たしかに都道府県条例により内容は微妙に異なっているが、細かな差異を気にする必要はない。条例違反に問われるのは悪質な場合のみであり、むしろ、条例違反ではないがコンプライアンスの観点から問題となって社会的に非難される可能性を考慮した慎重な商取引を心がけるほうが、実務上は重要である(コンプライアンス上問題はないが条例違反であるという場合はあり得ない)。

関連契約の範囲

Q9東京都条例18条2項にいう「関連契約」の概念・範囲はどこまででしょうか。直接の契約相手だけでも膨大なので、さらにその先までチェックすることはほぼ不可能です。


黒川
 関連契約とは、再委託契約だけでなく、売買契約における商品納入のための運送契約等、合理的に元契約に「関連」するといえるあらゆる契約が該当し得る。しかし、条例が事業者Aに求めているのは、直接取引先Bの関連契約の相手方Cの反社チェックそのものではなく、Cが反社であると判明した場合に、BがCとの契約を解除することなどをBに求めることができる旨をAB間の元契約に盛り込むことである。つまり、BがBの責任で、Cの反社チェックをしたり、Cに反社会的勢力でないことを表明させればよい。Aにとっては、直接の契約相手Bが信頼に足りる者であるならば、その者の責任として契約相手Cの反社チェックは行うはずだから、まずは契約相手の見極めが重要である。

条例の解釈・運用

Q10条例が分かりにくく、禁止行為が広すぎるのではないか。

黒川 条例は全事業者が対象だが、禁止されているのは、概略、暴力団の威力を利用する目的での暴力団員等への利益供与(商取引)や、暴力団の活動を助長することを知っての利益供与(商取引)であり、極めて悪質なものに限られている。暴力団排除の社会的取組み状況からすれば、条例違反でなくとも社会的に問題となる場合のほうが多いだろうから、条例の規定に拘泥することなく、被害防止の観点からも、暴力団・反社会的勢力との関係遮断に取り組んでいただきたい。

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