インタビュー

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中山信弘氏

■フェアユース

 これまで、フェアユースをめぐっては、法的安定性や解釈の柔軟性の有無という観点からばかり議論がなされてきましたが、私は「官から民へ」、「事前規制から事後規制へ」という流れの一環としてフェアユースを見るべきだと思っています。

 著作権法30条以下に権利の制限事由として、権利侵害にならない行為をあらかじめ限定列挙しているのが現在の規定の在り方です。フェアユースはそのような考え方ではなく、自分がフェアだと考えたらリスクをとってビジネスを始めればよく、文句のある人がいれば、後で裁判所で決着をつけましょうというアメリカ的な考え方です。つまり、フェアかどうかの判断をまず自分がリスクを負うことで新規ビジネスに投資ができるということです。現に、グーグルのような企業は、自分の行為はフェアユースだと信じて投資を行い、事実、訴訟をたくさん起こされていますが、訴訟の中で自らのフェアネスを主張して通しています。

 実際のところ、“お上”が新しいビジネスに対して法的なお墨付きを与えるには、審議会を開いたり、場合によっては法改正したりと時間がかかります。その間の1年、2年という時間はネットサービスにおいては非常に惜しいはずです。フェアユース規定には時間を節約するという意味もあると私は思っています。

 私は従来、日本の企業は法的リスクを取りたがらない傾向にあるから、日本でフェアユースはあまり機能しないのではないかとも考えていました。しかし、最近、考えを変えたといいますか、実態が分かってきたといったほうがいいのかもしれませんけど、日本にも法的なリスクをとるベンチャー企業がありますから、彼ら彼女らを支援するという意味で、最近ではフェアユースを入れたほうが良いのではないか、という考え方に傾いております。

 ですから、フェアユースというのは、条文の在り方の問題というよりも、裁判をどう見るかという日本人あるいは日本企業のマインドの問題です。法的リスクをとるマインドがない限りはフェアユースの規定を入れても意味がありません。

 また、実務的には、マインドの問題以外にも、裁判所がフェアユースの判断にどれだけ慣れているのかという問題があります。今のアメリカの裁判官は、200年の判例の積み重ねの中から何がフェアかを見つけ出していけばいいわけですが、日本にはその積み重ねがありませんから、裁判官がこれからフェアの概念・観念をつくっていくことになります。それは裁判官にとっては重荷かもしれませんが、やらざるを得ないことですし、十分に可能なことだと思います。例えば、民法770条では、離婚原因をいくつか挙げた後に、最後に「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という一般規定を設けています。裁判官は離婚事案のたびに「重大な事由」にあたるかどうかを判断しています。他にも同様の条文はたくさんありますから、著作権法の分野でフェアか否かを判断できないということはないでしょう。

 今の知的財産戦略本部ではフェアユースを入れる方向になっていますが、もしフェアユースが導入されるとすれば、制限規定を残したうえで最後にフェアユースを持ってくる形になると思います。従来、立法の経緯もあって、学説も判例も制限規定をかなり厳格に解釈していましたから、裁判官にとっては大変なことかもしれませんが、頑張って考えを変えてほしいですね。
   
 

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